重要成功要因の見える化

 経営戦略は、原材料の調達から最終顧客が消費する段階において、それぞれの段階における付加価値の流れであるバリューチェーンに沿って、自社の主要成功要因を特定し、市場展開を有利に進める枠組みである。しかし、戦略はあくまでも仮説であるから、日々PDCAサイクルを回しながら検証し、自社のポジションの変化を確認する必要がある。
 経営計画を提示し「経営を見える化」したとしても、これを環境分析のプロセスとして位置づけられていなければ、単なるマクロ情報あるいは結果報告書作成のツールとしての機能しか果たせない。情報を共有することで何を目指すのかといえば、バリューチェーンの中の重要成功要因の変化とこれによる自社の主要成功要因を意識させることにある。
 経営計画書を策定していない中小企業も多いが、策定しているとしても、根拠の薄い数値目標を羅列しているに過ぎないものもある。また、販売予測に基づいて策定された経営計画書でも、計画と実績の差異を把握するツールとしての役割しか果たしていなければ「経営の見える化」の意義は極めて限定的なものになってしまい、新しい仮説は生まれない。
 自社の経営を「見える化」するということは、「見える化」の柱として経営計画を位置づけ、「市場の魅力度」や「業界の魅力度」を常に観測し、自社にとって魅力的なターゲットの存在を常に把握しておくことにある。その上で、「持続可能な競争優位性」「使命」「リスクの許容度」を把握し、主要成功要因を確実なものにするための経営努力を推進していく。
 もっとも、この戦略は、競争戦略を前提としたものであるから、市場における自社のポジションや経営資源の状況によっては、成長戦略を選択する必要もあるかも知れない。こうした時にとりうる戦略はブルー・オーシャン戦略である。いずれにしても、自社の提供する商品やサービスは、顧客が抱えているどのような問題を解決できるのかが問題である。
 こうした観点から、経営計画をもう一歩踏み込んだ形で管理するビジネススコアカードの活用も検討に値するであろうが、要は手法の選択よりも、主要成功要因を見つけ出すことが「経営の見える化」の最大の課題であることを、経営者が全社員に対して伝えることであり、「見える化」することが目的であるという間違ったメッセージになってはならない。