望ましい人材像

 経営計画を明確に示し、目標を達成するための筋道である戦略が明らかにされていれば、その枠組みの中でどのような行動をとるべきかという判断基準についてのコンセンサスが得られる。しかし、戦略は必ずしも目に見える部分だけで構成されているものではなく、これを正確に読み取るのは容易ではなく、コンテクストを読み取る共通認識が求められる。
 戦略は企てであるから、経営理念に裏打ちされたものであることには違いないが、ビジョンの達成のためには、戦略の内数である戦術との区別は現実にはつきにくいこともある。もしも、ある企業の戦略が把握できれば、競合企業としても対応策を講じることはできるかもしれないが、現実には、これを読み取れるのはかなりの時間が経過したあとである。
 経営に関する書籍には、成功企業の戦略を解説したものが多いが、それは、戦略を打ち出した時点で解明されたものではなく、成功要因から逆に辿って得たことによるものであることが多い。戦略とはこうした目に見えない部分があり、経営者の価値観に基づいて情報を収集・加工・分析して打ち出すという性格のもので、他からは解りにくいものである。
 このように、相当意識を込めて解釈しようとしなければ、見えてこないのが戦略であるから、戦略の遂行とこれを担う人材のミスマッチも当然おきる。ましてや、労働市場関係の状態も考えると、「わが社に相応しい人材」をタイムリーに採用することは難しい。こうした場合、唯一このミスマッチを小さくするための方策は、戦略を事前に示すことである。
 企業はわが社に相応しい人材を求めている割には、その輪郭さえも明らかにしないまま、一般に優秀と評判の高い学歴を基準に選抜する。一方の就職希望者は、高給を始めとする安定した処遇を胸に抱きながら、決して本音を表面に出さず採用されることを願っている。その結果が、七五三などと言われる早期の離職率に繋がるミスマッチとなって表れている。
 これでは、まるでキツネとタヌキの化かし合いのようなもので、採用コスト、就活コストが埋没コストなってしまい、結果的に製品コストに転嫁されることになり、社会的な損失は計り知れない。会社が必要としている人材像と自分がその人材像に当てはまるかどうかを、時間をかけてじっくり検討できるようするのも、「見える化」の大きな意義である。