見える化することの狙い

 経営の規模が大きくなると、どうしても事業部制などの形を取らざるを得ないようになる。こうした場合によく起きるのが部門間のコンフリクトである。マネジメントを「見える化」することで、こうしたコンフリクトが起こらないようにできるかといえば、必ずしもそうとは言えないが、運用の仕方によってはかなり軽減できる可能性は増すことになる。
 異なった立場に立たされている複数の人が、お互いの立場を主張すれば必ず何らかの摩擦が起き、その主張が正論である場合は中々収拾がつかないのも道理である。こうした場合の解決策として機能してきたのが、両者の立場の違いを認識している上司が調停することで何とか解決してきた。つまり、この上司の調整機能が連結ピンということなのだろう。
 しかし、本質的に問題について完全に理解した上での解決ではない場合、その火種は消えることなく、場合によっては、一触即発の危険性を孕んでいることも珍しくはない。こうしたことが、企業の全体目標を達成するための行動の足かせになっていることを認識していながら、お互いの主張を曲げようとせず不合理な行動を取り続けるのは何故なのか。
 人間の行動は常に合理的な思考によってのみ起こされるのではなく、むしろ、感情や習慣によって行動に移されることの方が多い。「見える化」することですべてが解決するわけではないが、お互いの立場を尊重しようという強調性をより引き出せる可能性が高まると考えれば、お互いの役割や立場を俯瞰できる管理システムを構築することの意義は大きい。
 各部門が自己完結的に行動することが、全体目標の達成にそのまま寄与することになるという単純な構造であればべつであるが、複合化した企業経営においては、一見あい異なった行動の最適組み合わせによって目標の達成を目指す場合も多い。例えば、金融機関の場合、「預金を獲得する」という行動と「融資をする」という業務などがこれである。
 また、流通業の場合でも、「商品を仕入れる」という行動と「販売をする」という業務間でも度々コンフリクトが発生する。これらは統合化された全体の方針に照らし合わせて、調整するしかないわけであるから、戦略に基づいて設定された経営計画をもニュターしながら、行動の最適化に向けて連携するしかない。「見える化」することの狙いはここにある。