経営理念を熱く語る

 企業理念、使命、ビジョン、戦略などは、経営の根幹をなす重要な枠組みであることは論を待たない。しかし、これを全社的に知らしめ、徹底した行動規範として共有されるのはそう簡単なことではない。それは、文章で表現されたとたん、そのコンテクストの解釈に微妙な相違が生じてしまうからなのだろうが、それに止まらない理由もあるに違いない。
 小さな会社の社長に、御社の経営理念は何ですかと問いかけると、殆どの社長は即答できない(しない)ことが多い。それでは、この社長は経営理念がないのかというと、全くそういうことではないことはすぐに解る。それどころか、従業員はもちろん、得意先も会社の経営理念を熟知していて、これが強い絆となって経営が成り立っていることもある。
 こうしたコンパクトな市場関係のなかに身を置いている企業は、概ね適正規模の経営に徹しているため、高業績とは言えないまでも安定した経営が維持されている。つまり、小さな市場における限定的なニーズと、これに応えるための経営理念が噛みあっているということになるので、特に文章化した経営理念を掲げなくても、お互いに通じ合えるからだ。
 江戸時代風の表現をすれば、店主の理念がある種のカリスマ性として認知され、これをサポートしている番頭が、ビジョンや戦略に対しても共通の認識を持っているため、そこに形成されている規範力は絶対的なものとなり、経営も「見える化」されている状態になっていたが、所有と経営が分離した近代経営をこの延長線上でとらえるのには無理がある。
 しかし、翻って考えて見ると、形態は近代経営の体裁を保っているものの、基本的には、江戸時代さながらの企業体質の企業も多く、昔と変わっていることといえば、経営理念なのものを文章にして額縁に収めているぐらいである。そのためか、社員もこの存在についてあまり興味を持っておらず、社長自身の行動規範になっているとはいえないこともある。
 そのことを経営者にただしてみると、殆ど自分の言葉ではなく、前の社長との違いを示すために、他人に依頼して作ってもらったという答えが返ってきたりする。中小企業の場合は特に、人材の育成が途上にあるため、経営の枠組みはトップダウンで決定しなければならないとすれば、経営の根幹をなす理念を熱く社員に語りかけることが不可欠である。