成熟化社会の就労形態(その2)

 従来の帰属社会における組織は、組織の秩序を重視し、会社の目的を達成するために、個人が会社という組織に埋没する形になるように設計されていた。しかし、契約社会では、個人が主役となるように組織を設計しなければならない。つまり、組織構成員一人ひとりが力を発揮しなければ、強い組織にはなれないという考え方に立たなければならない。
 個人の力が求められていることは、今も昔も変わりはないが、組織全体が達成した成果は、個々人の力量の総合というよりは、一丸となって協働したことによるものであるという全体主義的な評価軸があったため、集団の影に隠れ、成果の恩恵だけ享受している個人が存在していたとしても、帰属意識のもとではとり立てて問題にすることはなかった。
 こうして疲弊し続けてきた組織を改革して、賃金制度を年功序列型から職能給などによる評価型に変えようと試みたが、結局失敗に終わってしまった。こうした組織制度改革の遅れが、付加価値生産性を低水準に止めることになり、国際的競争力低下の原因の一つにも繋がっている。これを場当り的に補おうとして導入しているのが固定費の流動化である。
 固定費の流動化現象は、こうした背景ばかりではないかもしれないが、契約社会では定番となると見るべきである。そうはいっても、固定費の最たるものである人件費を全て変動費と見るのはかなり乱暴で、個人の生活の安定とのバランスを考えれば合理的ではないが、成熟化社会において、商品により高い価値を付加するには避けて通れない道でもある。
 こうした変化は、ある意味では労働力を売る勤労者にとって向かい風のようにも思えるかもしれないが、実はその逆の面もある。変動費発想という考え方は、アウトソーシングを活発にするため、個人の能力が活用できる場が広がり、自分らしいキャリア形成のチャンスが拡大するというメリットもある。要は、雇われるという概念を払拭することである。
 就労形態が変わることをデメリットと捉えるか、それともメリットと考えるかは、人それぞれで、一概に決めつけることはできないが、社会のうねりがそうした方向に向かって進まざるを得ないという現実を謙虚に受け止めなければならない。企業は、人材を含めた経営資源を特化・集中して市場競争に立ち向かわなければ顧客から見放されてしまう。