小さな成功体験

 ビジョンを理解したとしても、それがすぐ成果に結びつくというものではない。実際にビジョンを実現してこそ、真にビジョン経営に踏み出したという実感をもつもので、頭の中で理解しているだけでは、すぐにモティベンションが冷え込んでしまう。つまり、小さな体験を通じて成果を実感させことで、少しずつ自信をつけさせていくことが大事である。
 例えば、ビジョンを実現するということは顧客にとってのバリューを実現することであるから、まず顧客が喜ぶことに挑戦してみようということで、挨拶を徹底するというほんの小さな目標を掲げ、徹底して実践させたところ、顧客から会社の雰囲気が明るくなったという評価を受け、顧客との間のコミュニケーション密度が濃くなったなどである。
 また、ある会社では、幹部社員が就業前に社内を率先して清掃するようにしたところ、やはりその姿勢が顧客から評価され、取引の引き合いが多くなったという事例もある。もちろん、挨拶を励行するとか清掃をするというのはどこの会社でも推奨していることで、それが直ちに業績の向上につながるというものではないことは重々承知しているだろう。
 しかし、実際のビジョン経営がここから始まったという現実がある以上、業績が低迷している企業は、軽んじる資格はないように思われる。というと、同じような試みは何度も行ってきたが一向にその効果が認められなかったので、定着しなかったという企業が多いように思われるが、それは形とビジョンの間に大きなギャップがあったからに他ならない。
 人は誰でも小さな成功体験を積み重ねることで自分を評価し、更に上を目指すという性質の動物である。その行動がビジョンをよく理解し、実現に向けての第一歩であったか、それとも、「挨拶をすれば業績が上がる」といった単純な動機からのものであったかどうかによって結果が分かれる。このことに対する反省がなければ成果には結びつくはずがない。
 そして、大事なことは、この小さな体験を上手に育てていくことである。成功も失敗もそれをどのように受け止めるかによって、今後の動機づけの起爆剤になる。少なくとも、初期の段階では、社員の意欲を引き出す正当な評価システムを用意し、ビジョンに沿った行動は、正しく評価されると誰もが実感できる仕組みを事前に用意しておくことである。