ビジョン・バリューの伝え方

 経営理念やビジョンは、抽象的で解りにくいのが普通である。大抵の会社では応接室の額縁に収められているが、これを経営の指針として活かされているかといえば、かなり疑問に思うこともある。場合によっては、経営者自身でさえも理念を貫いているとは思えないこともあるくらいで、単なるお題目としてしか機能していないように見えることもある。
 最近ある企業を訪問した際、応接室の壁に掛けられていた「経営理念」なる色紙が目に入ってきた。何気なしに読んでみると、なるほど経営姿勢を示す立派な言葉が並んでいた。社長が登場したので、まずは、「素晴らしい経営理念ですね」と水を向けてみたのだが、社長の応えは、「ある人に依頼してつくったものですよ」というそっけないものであった。
 だからといって、社長の価値観が反映されていないと決めつけるのは早計であるとしても、問題は、示された経営理念をどのていど社員に伝わっているかである。社員に聞いてみると、その内容について社長から伝えられたことはないということであった。これでは、社員の行動規範も確立されているとは思えないが、業績は上向いているというのである。
 経営幹部にそのへんの事情をもう少し詳しく聞いてみると、歴代の社長から受け継いだ経営理念が脈々と生きているため、特に改めて経営理念を口にする必要はなく、社員はみな定着している暗黙の社是のようなものに基づいて行動しているのだという。それにしては、新たに掲げられた経営理念とはかなりかけ離れているところに違和感を覚えた。
 このような企業がどの程度の割合で存在するのかを調べたことはないので何とも言えないが、結構存在することは確かなようである。しかし、中小企業などの間では、「最大の経営資源は社長である」といわれていることも確かである。つまり、業績のよい企業は社長の経営理念がしっかり浸透しているため、社員の行動規範もこれによって確立されている。
 ということは、やはり、経営者が折に触れ「経営理念」の中身を噛み砕いて社員に伝えているということを意味している。中小規模の企業であれば、経営者と直に接する機会も多いが、規模が拡大するにつれて、コミュニケーションが遠くなることを考慮すれば、ビジョン・バリューを映像などで解りやすいストーリーとして伝えることが必要である。