気づきを誘うリーダー育成

 人が新しい思考や行動特性を習得するにはかなりの時間を要するものである。人は生まれたばかりのころには、取りあえず自分の周りで起こっていることを両親の庇護のもと経験し、まずまねることで社会いに対応しようと努める。その経験によりある程度要領がのみこめるようになってくると、モデルをつくりそれを拠り所にして行動するようになる。
 そして、更に経験を積み学習することにより、かなり明確なものの考え方「思考様式」が構築され、それに基づいた行動特性が定着する。こうして長い年月をかけて形成された思考・行動特性は、新しい情報と更なる学習によってリフォームされたり、場合によっては大幅に改定されることもあるが、そこでは旧モデルとの葛藤が起こるのは当然である。
 社員研修などでよく経験することであるが、あるべき姿を強調すると必ず異論があり、場合によっては激しい反論に会うこともある。これなどは、正しく自分がこれまで築き上げてきた思考・行動特性と全く違う建前論に過ぎないというのが主な理由である。しかし、このように反論する人は、研修を実のあるものにするためにはありがたい存在なのである。
 というのは、多くの受講者は、具体的に反論はしないが、「有るべき姿」などというものを受け入れる姿勢は全く示していないからである。国際社会において日本人特徴がよく取りざたされるが、そのなかでも特徴的なのが、「質問しない」という性格である。ましてや、大勢の人の前で「反論する」などというのは、「喧嘩を売る」に等しいと思っている。
 しかし、もの事は議論をすることなしには何も始められない。社員研修においても、「何も質問しない人」は、研修を受講しない人と同じである。特に、リーダーを育成するためには、リーダーとして、新しい思考・行動特性を習得しなければならないから、これまでの既成概念を払拭しなければ、他のメンバーに対しするコーチやメンターにはなれない。
 企業規模や業界によって、リーダー育成の方法は様々であるが、共通していえることは、表面的な会話ではなく、顧客が求めている「心理的価値」や「ソリュウション価値」について徹底的に話し合う時間が組み込まれていることである。人員のやりくりが困難なことを理由にしているだけでは、時代の変化に相応しいリーダーを育成することはできない。