思考・行動特性の変革を促す研修

 同じように仕事を与えても、同じ研修を受講させても、その成果には必ず個人差がでる。経営者や管理者の立場から見ると、そのような差が生じた原因はどのように分析できるのだろうか。最も一般的な分析は、「やる気の差」であり、その次に来るのは「能力の差」である。一方の受講者は、「やる気が起こる研修」であったかどうかで評価している。
 仕事の与え方でも、組織の都合により移動した先任者のポストを埋めることが目的である場合もあれば、成果の極大化を考え適材適所の人選をする場合もあるだろう。また、長期的な視点で将来の成長やキャリア形成を目指して与える場合もあり得る。こうした事情の違いを考慮に入れず、有用な知識や技術の習得を目指す研修を受講させればどうなるか。
 研修の内容が、自分のキャリア形成に役立つと感じた者は、「やる気」を刺激されるから、上司の評価にも耐えうる成果に結びつくかもしれないが、ただ単に義務的に受講させられたと受け止めているものにとっては、苦痛であると感じてしまい成果には結びつかないかもしれない。こうした立場の違いを「やる気」や「「能力」で分類するのは不合理である。
 しかし、さりとて常にキャリア形成に有効と評価される仕事を与えたり、研修が用意されているわけではないから、どこかで折り合いをつけるほかはない。特に、明確なキャリア意識を持っていない者にとっては、経験を積むことによって自分のキャリアに対する願望が見えてくるというのが普通である。ということは経験をどう生かすかの問題でもある。
 一般的に、新しい思考・行動特性は、次のような4段階で起こるといわれている。第一段階は、その職務の遂行に必要な思考・行動特性を保持していないか、あるいは能力を発揮していないことに自分が気づいていない状態(無意識無能状態)である。第二段階は、研修を受けることで、徐々に気づき態度が変わる状態(意識無能状態)に変化していく。
 第三段階は、自分が今までいかに仕事に対する意識がなかったかを悟るとともに、これを改めて能力を蓄え、力を発揮する状態(意識有能状態)に変化していく。そして最後には、特別意識しなくても能力が自然に発揮できる状態(無意識有能状態)へと変化する。仕事と研修をバランスよく組み合わせ、こうした発展段階を確認することが大事である。