人材活用の考え方

 労働市場の流動化は、雇用環境が変化したというよりは、雇用のあるべき姿に市場が気づいたという側面が強い。雇用を固定的に考えることが生活設計のために不可欠であるという大義名分が、硬直化した雇用慣行を生んでしまったと考えるべきである。勿論、雇用の安定は不可欠ではあるとしても、雇用の安定だけが企業の使命ではないからである。
 ただし、「仕事がなければ労働者必要ない」とか「働く人がいなければ企業が成り立たない」といった「卵が先か鶏が先か」のような次元の議論ではない。企業活動と雇用との関係は元々表裏一体のものであり、どちらかを固定して考え始めると主導権争いが起こり、その時々の情勢により、有利なポジションを獲得しようと画策してきたという歴史がある。
 しかし、昨今の現象はこうしたコップ中の水の争いではなく、お互いが日々変貌しつつある環境を所与の条件として受け入れなければ、企業も労働者も存続してはいけないということに気づいたからであり、国の指導や法律の改正などによって是正できるものとは本質的に異なるものである。こうした現状を踏まえた上で人材育成を考えなければならない。
 勿論、求職者としても、「雇ってもらうこと」を目的とせず、自分のキャリア形成に焦点をあてて、職業を考えるという姿勢に改めなければならないが、企業としては、パートやアルバイトを戦力として活用することに前向きにならなければならない。何故ならば、今のような形態の非正規雇用者が増えれば、質の良い人材が育ちにくくなるからである。
 すなわち、非正規雇用者を単なる員数と扱い、生産性の低い業務にのみ活用していると、これらの雇用者はキャリア形成がままならないため、正社員の仕事を代替する能力が育たない。ということは、逆にいうと正社員の仕事も減らないので、より付加価値の高い高度な仕事に挑戦することができなくなる。これは企業にとって大きな損失であるはずである。
 また、非正規雇用者はキャリア形成できないまま転職を繰り返すから、何年たっても、賃金水準が上がらず、貧困から抜け出せないワーキングプアに陥ってしまう。かくして、国は彼らを生活補助金の支給など税金を使って救済せざるを得なくなる。このようにして、非正規雇用を使い捨て要員とすることで、企業は外部不経済をまき散らすことになる。