キャリアチェンジで培われる成長

 新入社員が与えられた担当業務を通じて成果をあげ、順調に出世するというケースは近頃珍しくなっている。こうした人もうらやむ出世コースを歩むのは理想かもしれないが、何らかの事情でそれが挫折した場合、キャリア形成が途絶えてしまい、二度と立ち上がれないというのであれば、世の中は不幸な人でいっぱいの世界になってしまうはずである。
 とくに、現代のように、これまで花型であった事業が突然他の企業に売却されたり、廃止されるといったことが日常茶飯事となっている状況下においては、順風満帆なキャリア形成などは望むべくもないことになる。しかし、人は大なり小なりこうした境遇に追い込まれながらも、立ち上がり立派なキャリアを築きあげていることの方が遥かに多い。
 こうした場合のいわゆるキャリアチェンジのパターンには、大きく分けて2種類あるように思われる。一つは、熟練の技やノウハウが必要とされるキャリアで、長い年月をかけて培われてきたキャリアである。もう一つは、経験をつむとことで培われるという意味では同じであるが、普遍性の高い学び方ができる抽象性の高い業務によるキャリアである。
 昔からよく言われるように、戦が有利に展開している時に発揮するリーダーシップと、何らかの事情で形勢が逆転した場合のリーダーシップは全く別のものである。つまり、ある一定の変化が予測される展開の中で育てられたキャリアは、状況や枠組みが変わると全く役に立たず、これまでのキャリアはゼロにリセットされてしまうという現象である。
 これの違いは、与えられた職務の違いによるものではなく、学び方によるところが大きく影響しているように思われる。それは、同じ経験や教育を受けてきたのに、育ち方が全く異なり、他の仕事に移ってもその後のキャリア形成にも大きな差が生じてしまうことでも説明できる。この違いはキャリアを通じて概念化能力を磨いたかどうかの差である。
 つまり、俗な言葉でいうと、「つぶしがきくかどうか」ということにもなる。このようなしたたかな姿勢で日々の業務をこなしているタイプの人は、仕事や職務が変わった場合には、一時的に変化の直後には成長度が少し落ちるとしても、抽象的の学び方をしていくことで、普遍性の高い能力が活かされる形で、成長曲線は再び上向きに上昇することになる。