顧客接点でのプロの育成

 新しいビジネスモデルでは、誰(顧客ターゲット)に何(顧客価値)をどのようにして提供(開発・製造・販売・物流システム)するかが問われる。すなわち、顧客価値の創造と実現のための組織的プロセスを明確に示すことであるが、同時に収益を通じ儲ける仕組みであることも重要なファクターである。そして、組織を動かすのは他ならぬ人材である。
 この人材がプロフェッショナルとして顧客接点で活躍できるシステムが構築されていなければ、どんなに素晴らしい設計図が描かれていてもビジネスモデルとしての体を成さない。先に示した観光業界や証券業界の例だけではなく、あらゆる産業に双方向のコミュニケーションを通じたソリュウションビジネスへの転換を迫っているといえそうである。
 企業がこうした変化に対応して事業ビジョンを再構築する場合、それと連動した職務編成も必要不可欠となる。この職務編成では、必然的に仕事の自由度と自立性が高いことが求められるため、個人の内発的動機にあったスタイルであることが必須の条件となるから、旧来のように販売マニュアルの提供や上司の指示といったスタイルは通用しなくなる。
 したがって、こうした柔軟な組織における人材育成の担い手は、直属の上司ではなく、その筋に精通したプロフェッショナルが担うのが最適である。つまり、階層型の組織における上司が顧客接点において最適なアドバイサーではなく、プロフェッショナルであるという認識が共有されていなければ、時代に即応したプロフェッショナルは育成できない。
 中小企業においても、自主退職を願い出る者の多くは、仕事にやりがいを感じることができなくなったと心情を吐露している。詳しく聞いてみると、「顧客の要求と会社の方針との狭間で葛藤があり、誰のために仕事をしているのかが見えなくなってしまった。」という理由が多いが、企業側は、そのシグナルをまともに受けとめようとする姿勢は全くない。
 それから、顧客価値の変化ばかりではなく、働くものの意識も大きく変化してきている。その象徴ともいえる意識が、ワーク・ライフ・バランスである。これは、仕事と人生の両立を目指しているもので、家族の生活設計にマッチしたキャリア形成との関係に対する価値観の変化であり、顧客との信頼関係を築く働き方と決して矛盾するものではない。