経営戦略と人材育成

 人材育成に関してはいくつかの考え方がある。一つは、日常の業務を無難にこなすためには、当然教育訓練は必要であり、企業が定期的に実施するのは当然であるという考え方である。もう一つは、企業は学校ではないので、給料を払って雇っているのであるから、職務遂行上必要な技術や知識は社員の自助努力で獲得するべきであるという考えである。
 この考え方の違はい大きいように見えるが、現実にはそれほど大きな差はない。というのは、採用する時点で会社の業務遂行に必要な技術や知識を全て備わっているものを採用できるとは思っていないし、また、採用後に中途で能力がないという理由で解雇するということも滅多にない。つまり、二つの主張はどこかで折り合いをつけているわけである。
 それよりも大事なことは、どのような人材がわが社では求めているのかということを、採用する以前に明示していたかどうかの方がはるかに重要な問題である。中小企業では、わが社には人材がいないと嘆いている経営者をよく見かけるが、ちょっと意地悪な言い方をすれば、人材がいないというより、育たなかったのでないですかといいたくなる。
 経営者のこうした嘆きとは裏腹に、社員はわが社には戦略がないとこぼしている。どちらの主張が正しいかは少なくとも裁判で決めることではないし、そんなことは誰も望んでいないはずでる。要は、会社がどのような人材を求めているかということと、その人材は、どのような経営戦略を遂行するために必要なのかが不明瞭であることが問題なのである。
 経営者は、「白いネコでも黒いネコでもネズミを捕ってくるネコが優秀なネコだ」と人目をはばからず言い放つ。しかし、商品を販売するということは、顧客のどのような要望に応えるためにわが社は何をすべきか、ということが十分に認識されていなければならない。すなわち、目的と戦略が統合化されていなければ、社員の行動も成り行きに任せになる。
 企業目的がまず明確に示され、その目的を達成するための戦略が立案されることにより、それを遂行するための組織が編成される。そこでその組織を動かす人材が必要になるので、人材を育成するための教育ニーズが明らかにされる。環境の変化が激しい現代においては、組織の再編成は常に必要なると考えれば、教育ニーズも日々進化するはずである。