勘と経験による方法

 どんなに科学技術が発展しても、最終的に意思決定をするのが人間である以上、あいまいで不確実なものに判断を下すためには、「勘と経験」は欠かせないファクターである。勘と経験による方法は、見えないところの人間の能力に依存するという点で、長所にもなり短所にもなる。特にどの程度信頼できるのかという点では不安が残ることになる。
 こうした不安を軽減するために、最終的には人間の勘と経験に依存しながらも、できるだけ合理的な手順を踏み、あるいはシステム的な分析手法を組み合わせることが考えられてきた。その代表格がシナリオ法とデルファイ法である。これらの方法は販売予測などに活用されるなど、不確実な条件のもとで意思決定を迫られた場合に威力を発揮する。
 シナリオ法は、ターゲットとするモデルであるペルソナとともに用いられることが多く、シナリオで描いた利用行動もペルソナ作成時に行ったユーザー調査で得たデータを題材にして作成するのが一般的であるが、これには大きな欠点もある。つまり、この方法は仮説の連続という面があるので、前提条件が崩れると仮説をたてなおさなければならない。
 つまり、シナリオ法は、環境をどのように捉えるかによって、複数のシナリオを作成し、それぞれについての予測を行う。そして、それぞれに適応した戦略を選択するというプロセスで、シナリオの選択(意思決定)をする。これは、環境の予定→予測→戦略の選択→実行という、通常の意思決定システムをシナリオとして描いたものである。
 一方のデルファイ法は、それぞれの立場や視点から異なったアプローチをするので、大幅に狂いが生じる虞はなく、特定の人の偏見などが軽減される。いずれにしても、勘と経験による方法がベースであることには変わりはないが、陪審法のように、パネリストの予測を平均した結果よりも劣る結論になるという結果は避けられる点で優れている。
 あやふやなものに取り組む時、これを科学的に分析して納得のいく形で意思決定ができればベターであるが、ここではそうした手法が通用しないものをどう扱うかということをテーマとしている。勘とか経験というと、刑事ドラマの叩き上げ刑事のようで、非科学的に思えるかもしれないが、先人の知恵やノウハウも勘と経験の結晶なのである。