不確実なものの判断

 経営に関する意思決定は不確実なものの連続であるため、確信を持って事前に意思決定できることは極めて少ない。しかし、同じような状況下においても、優れた経営者と呼ばれる人物が下したい判断には、それなりの説得力があり、概ね好ましい結果に結びついていることが多いようにも思われるが、多分に結果論であるように見えることもある。
 というのは、優れた経営者は周囲に対する影響力も大きいので、時には、論理の正しさよりも、経営判断を下すこと自体が結果に与える影響が大きい。そのため、一旦下された判断は、そのままグローバルスタンダードとなり、何が正しいかということよりも、下された判断そのものの価値を高めるように周囲が必然的に動くからである。
 確かに、優れた経営者はカリスマ性があり、周囲に対する影響力は大きいが、どんな人でも初めから優れた経営者であったわけではないと考えれば、そこまで登りつめるまでには、判断を下すだけの論理的根拠を積み上げてきたと見るべきである。つまり、そこまでの道のりで培った経験や分析力が総合力として実った結果であることも言えるはずだ。
 何といっても、同じ条件のもとで、並いる競合企業と競争して打ち勝ってきたという実績が評価されたからこそ、現在の地位があるわけであるから、適切な判断を出し続けたことには間違いない。ということは、一方では分析に基づく論理性を重視しながら、他方ではかなり非科学的な総合判断を下すという相矛盾する行動の結果といわざるを得ない。
 不確定なものに判断を下すメカニズムとは一体どんなものなのだろうか。こうした疑問に対して、明確な答えは出せそうにもないが、少なくとも、いわゆる山カンのようなものの連続ではないことだけは確かである。そこには、分析と総合という一見相矛盾する思考が融合することにより、練り上げられてきたベターな結論であったとしか言いようがない。
 これまで、多くの先人が、「優れた経営者像」について定義づけるためにチャレンジしてきたが、未だ納得のいく結論に至っていない。論理思考による判断力、分析力、仮説力、企画力、決断力などを持ちあわせているという特徴は認められるとしても、それは必要条件のうちの一つに過ぎなく、優れた経営者像を説明する十分条件にはなり得ない。