ワーク・ライフバランスを重視する人

 テレビの刑事ドラマなどでは、仕事のために家庭を犠牲にしてしまったことが原因で、家庭崩壊に至ってしまうという場面がよく登場する。「何てあの奥さんは無理解なんだ」と思わせるものもあるが、これはドラマの主役が刑事である主人であり、世の中の平和のために献身的な仕事をしているという思いを視聴者が共有しているからである。
 ドラマの場合は感情移入を巧みに誘導しているので、共感できる面もあるが現実に自分の家庭の問題となると、がぜん、奥さんの立場に立った考え方を支持する人が多くなるかもしれない。会社人間に徹しなければ、会社も家庭も維持していけないと考えるのが、社員として当たり前であるという、かつての常識は矛盾に満ちたものである。
 もしも、経営者や上司がそうした評価軸で社員を評価しているとすれば、家庭を守る方の立場からすれば納得がいくはずがない。現場で実際に働いている社員としては、会社側の考え方に批判的であったとしても、社員であり続ける限りは自分の考え方を優先して仕事に取り組むのは無理がある。しかし、このギャップを放置しておくわけにはいかない。
 ワーク・ライフバランスとは、仕事と私生活を両立させることで、結果的に仕事も効率的にこなせるという意味であり、仕事のやり過ぎを解消して、もっとプライベート・ライフを充実させようというものではない。ただ、今までの仕事中心の考え方を是正しなければ、人材の保有能力を再生産させる循環が滞ることも考えるべきだということである。
 したがって、理想的な姿としては、私生活を充実させることにより、仕事をより充実したものにするために必要なエネルギーを充填させ、このエネルギーを仕事で消費するというサイクルを回すことである。こうした好循環が常に保てるとは限らないが、少なくとも、仕事をいい加減に切り上げ、私生活だけを充実させようというものではない。
 要は、刻々と変化する環境に適応しながらも、こうした好循環を保つことが、自分流の仕事の仕方であるというスタイルが身についているかどうかである。仕事のために私生活を犠牲にせざるを得ないと考えるようでは、持続的に成果の上がる仕事は期待できないことを熟知したうえで、自分のライフスタイルを考えられる人が求められている。