単身赴任を命ずる場合の注意点

 転勤、出向、転籍などの移動命令を出す場合、労働者が置かれている生活状況によって、配偶者や家族と離れて単身で赴任しなければならないことは起こり得る。単身赴任を余儀なくされるような生活事情としては、子供の教育や進学や高齢者、病気の家族を抱えて転居することの困難さ、持ち家の場合の管理などが典型的な問題として挙げられる。
 その他にも、個別の問題として単身赴任による多くの問題が指摘され、大きな社会問題になっている。転勤を拒否すれば解雇するという一方的な措置を嫌い、いっその事、この際に会社を辞めるという決断をするケースも多くなってきている。こうした状況を重く見て、企業側としても、労働者の要望に耳を傾けるようになってきたことは評価できる。
 すなわち、単身赴任が可能な場合でも、本人の事情に十分に配慮し、なるべく回避できる方策を講ずるべきであることや、単身赴任手当や別居手当、一時帰省のための往復旅費、子女の教育手当などの支給を行っている企業が多い。さらに、単身赴任自体を回避する措置として、長期出張や限定勤務地制度などを設けている場合もある。
 単身赴任に限らず、異動命令を出す場合には、就業規則や労働協約の定めがない場合は勿論のこと、これらの要件を満たしている場合でも、その手続きに問題があると、意図した効果を上げることは期待できない。それどころか、場合によっては権利の濫用と判断されることにもなり兼ねないので、慎重に対処しなければならない。
 企業によっては、企業内部で異動の意思決定をしたのち、労働者に対して事前に内示するよう就業規則や労働協約で義務づけていることもある。この場合は、本人に充分検討する時間を与えなければ、配置転換が無効になる。また、明示の規定がない場合でも、十分に考慮する期間や準備期間を与えることが望ましいと考えるべきである。
 会社側が、こうした一連の手順を踏んでいれば、労働組合側が合理的な理由を示さずに反対した場合は、組合側が同意権を濫用したと認められる可能性が高まる。合意して単身赴任を含む異動が実施される場合でも、できるだけ転勤の負担を軽減する措置を講じるとともに、異動させることの意義を十分に理解させることが肝要である。