配置転換の範囲

 配置転換がどこまで許されるかという問題は、使用者にとっても悩ましいことである。一昔前の考え方は、使用者には人事権があるのだから、自由に配置転換命令を出せると考えられていた。しかし、最近は、人事権があるとはいっても無制限というわけではなく、使用者と労働者の契約に基づいて認められると考えられるようになってきた。
 この考え方によれば、配置転換が許されるかどうかは、募集や採用時点の事情、労働協約、就業規則などの規定、企業の規模、業種、事業内容、それに業界慣行などの諸事情を総合的に勘案して決めることになる。したがって、就業規則に「業務の都合により配置転換を命ずることがある」と規定されていれば足りるというものでもない。
 実際に配置転換命令が出され、従業員がこれを納得して受け入れた場合は問題ないが、その命令自体が使用者のいじめに近いと感じた場合や合理性が極めて薄いと従業員が感じた場合は、例え就業規則などに違反するとしても、配置転換命令を拒否したことが直ちに労働契約違反になると考えるのは間違えだと言わざるを得ない。
 つまり、就業規則にこのような規定がある場合でも、労働契約上、職種、勤務場所に関する限定があるとみられる場合にはこれに制約されることになる。また、配置転換は、業務上の必要性があって行われるべきものであり、従業員本人の職業上、生活上の不利益にならないよう十分に配慮して行わなければならないことは当然と考えられている。
 例えば、地方の工場や支店などで、現地採用された場合や補助的事務職として採用された女性従業員、主婦やパートタイマー、兼業農業者などの場合には、慣行上からいって転勤のない場合が多く、勤務場所が限定されていると考えるべきであるが、大学卒や本社採用の場合は、企業規模や業種などによって、勤務地が変わることはあり得ることである。
 さらに、採用時に労働者が従事すべき業務が極めて限定的である場合には、配置転換を命ずる必要が生じたとしても、労働者の同意が必要である。例えば、医師、看護師、薬剤師、弁護士、会計士などの特殊な技能を前提として採用された専門職の場合には、他の職種に配置転換されることは想定していないと考えるのが普通である。