競業避止義務

 競業避止義務の問題を考える場合、従業員が会社に在職中の場合と退職後の義務について分けて整理してみる必要がある。従業員が在職中の場合は、勤務先に対する競業行為を行わない義務(競業避止義務)が、就業規則に規定されているかどうかがカギとなるが、仮にその旨が定められていなくても、労働契約における信義則上の義務とされている。
 もちろん、この原則がどこまで適用されるかは、ケースバイケースで、単に転職や起業の準備したに止まらず、競合企業の開始、従業員の引き抜き、顧客奪取、企業秘密の漏洩など積極的な行為があったかどうかが問題となるが、その一方で、従業員の職業選択の自由が認められている以上、その程度によって判断しなければならないことになる。
 例えば、在職中の引抜行為については、「企業の正当な利益を侵害しないように配慮されている限り、雇用契約に基づく誠実義務に違反することはできないが、企業の正当な利益を考慮することなく、密かに大量の移籍計画をたて引き抜く等の行為は、単なる勧誘の域を超える」として、社会的相当性を欠くもので背信行為であるとした判例もある。
 一方、退職後の競業避止義務については、労働者の退職の自由、職業選択の自由、自由競争の原理という観点から言って、競業避止義務については極めて限定的に認められるに過ぎない。ここでの判断基準は、何といっても事前に就業規則などで事前に明確に取り決めされていることということになるが、もちろん例外もあることは事実である。
 例えば、退職後に元従業員が行った行為が、競業避止義務には当たらないとしても、自由競争の範囲を逸脱し、不当競争・社会的相当性を超えた手段・態様で競業行為が当たる場合は、従業員の場合に比べて責任を問われる可能性は小さいとはいえ、不法行為責任の存在を認められた判例もある。この時の基準は社会的相当性の逸脱程度による。
 要するに、競業避止義務に違反しているかどうかを判断する基準は、従業員の職業選択の自由という権利の確保と社会的相当性を欠く程度の不法行為責任とを総合的に判断するということである。更にその総合判断の内容は、機密性の程度・禁止対象の範囲、代償措置の有無、職種・地域限定の有無・内容、競業行為の態様などとなっている。