就業規則の変更(その2)

 就業規則の変更が労働者にとって不利益になるかどうかの判断は、個々の労働者の状況によっても異なるので、その判断基準は一律に定義することは難しい。例えば、定年年齢を引き上げるという改定は一般的には労働条件の改善を目指したものと考えられるが、この改正によると、早期退職を希望する者にとっては必ずしもありがたい改定ではない。
 すなわち、依願退職により定年時よりも早く退職するのだから、退職金の算定率が定年時の退職と比べて低くなり、不利益になるといった場合はどのように合理性を判断すればよいのか解らない。就業規則改定の場合に、「旧定年に達した時点で退職する場合は、会社都合とみなす」という但し書きを入れれば済むのかもしれないがどうもしっくりこない。
 第一、定年制度を設けていることが合理的であるかどうかも、もっと議論されてしかるべきである。会社として従業員の早期退職を促す場合もある一方で、定年年齢にこだわらず有用な人材を何らかの形で会社に慰留させる場合もある。「長期に雇用することはよいことである」という固定観念が、多様なキャリア開発を阻害してきた面もないとは言えない。
 しかし、裁判所の「合理性」についての判断要素は次第に具体化してきていて、1)労働者が被る不利益の程度、2)使用者側の変更の必要性の内容・程度、3)変更後の就業規則の内容自体の相当性、4)代償措置、その他関連する労働条件の改善状況、5)労働組合との交渉の経緯、6)他の労働組合または他の従業員の対応、7)同事項に関する国における一般的状況、等を上げている。
 判例を集積した結果辿りついたものであることは理解できるが、やはり具体性に欠ける点はまだ残されている。それは前述の例のように、労働者の価値観が多様化している現在、会社側と労働者の立場や考え方の面で、「合理性」を7つの要素で判断することには無理がある。というよりも、裁判所に判断を委ねることには無理があるように思われる。
 そうはいっても、お互いの主張が異なるからこそ裁判に持ち込まれるわけであるから、何らかの判断を下さなければならないという現実を考えれば、現時点ではやむを得ないのかもしれない。そうだとすればなおさらのこと、経営者も労働者も、お互いに「合理性」を主張し合う前に、妥協できる点を「合理性がある」と判断する知恵が求められる。