就業規則の変更(その1)

 賃金規程や退職金規程を含む就業規則を変更する場合、労働同組合の代表者あるいは従業員を代表する者の意見書を添付して労働基準監督署に届け出なければならないが、この場合の意見書の内容が就業規則の変更に反対するものであった場合、変更が認められるのかというと、法律的には絶対に認められないという根拠はない。
 しかし、もしも認められたとしても、その内容が明らかに労働者にとって不利益なものであれば、例え認められたとしても、労働者は納得していないわけであるから、実際にその改定規則を適用することによって不利益が顕在化した場合はトラブルになる可能性は高い。この点については専門家の間でも大きく意見が分かれている。
 不利益変更はできるとした場合でも、改定された新規則が、個々の労働契約にどのような効力をもつかが問題である。すなわち、不利益になるかどうかは労働者個々の問題である場合もあるので、不利益になるかどうかについては画一的には結論付けることは難しいからである。契約説によれば、同意しない労働者に対しては効力が生じないことになる。
 しかし、法規範説によれば、労働者の同意の有無を問わず適用できることになる。どちらの説が正しいかどうかは別として、これまで定められていなかった、定年年齢が60に改定されたといった具体的な問題については、経営者、労働者双方の主張にはそれなりの合理性があり、法律的な解釈で処理することは馴染みにくいように思われる。
 最高裁は法規範説をとっており、「新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を否定することはできない」としている。
 一方的な不利益変更は「原則として許されない」が「合理的な変更」は許されるということになると、合理的な変更とはどう捉えればよいのかがポイントとなる。「合理性」の有無を巡り紛争が法廷に持ち込まれれば、裁判所の判断に委ねるほかないが、その前に充分にお互いの立場を尊重し、話し合いを重ねたかどうかによるところが大きい。