懲戒処分の基準(その2)

 懲戒処分の判断基準として刑法の「罪刑法定主義」の原則が採用されていることは間違いないが、そうだとすると、若干矛盾を感じることもある。例えば、現在の労働基準法では、従業員を常時10名以上雇用する事業所は就業規則を定めなければならないとされている。逆にいえば、10名以下であれば就業規則を定めなくてもよいということになる。
 そうなると、労働基準法89条第1項の「制裁の定めをする場合においては、その種類および程度に関する事項」を就業規則に記載すべきであると定めていることと矛盾するように思われる。つまり、就業規則を定めていない、従業員10名以下の事業所では懲戒処分はあり得ないということになるが、この点に対する明快な説明は存在しないのが現状である。
 それはともかくとして、懲戒処分の原則として、懲戒の規定は行為より前に規定されていなければならないとか、懲戒処分の対象となるのは懲戒事由にあたる行為をした本人で、その上司であるという理由だけでは懲戒の対象ならないというものがある。これらは原則というよりも、一般社会では常識中の常識であり、特に原則とするほどのことはない。
 その他にも、懲戒処分と懲戒事由との関係が客観的に見て相当でなければならないというのがある。これも考え方としては理解できるが、現実に紛争状態になった場合、使用者と労働者の主張には隔たりがあることを考えれば、他の事例や判例と比較して相当性を判断するしかないので、事前にバランスのとれた規程を定めておくことが肝要である。
 また、懲戒処分を行う場合、以前に行った処分と比較してあまりにも不平等であると判断されるものであれば、前例に合わせなさいという原則があるが、前例があまりにも強すぎたという反省があった場合も平等適用の原則には反することになる。こうした場合は、以前の処分を遡って軽減しなければならないのかどうかという問題も残る。
 懲戒処分を行うにあたって、その手続きが適正であることは当然であり、これも常識の範囲のことではあるが、実際にはこの手続きを巡る争いは結構生じている。一時不再理の原則も現在では広く認識されている考え方で、考え方自体は誰でも納得できるが、使用者の頭の中では完全に吹っ切れていないことも多いので注意が必要である。