懲戒処分の基準(その1)

 懲戒権が使用者にあるとはいっても、就業規則や労働協約に規定されていない処分はできないことは明らかであるが、その手続きにおいても労働者の弁明を聴く必要があることも忘れてはならない。さらに、最も重要なことは、処分を決定するに至った帰責事由と処分の内容との間のバランスがとれているかどうかが問われるということである。
 就業規則に定められている服務規律には、懲戒処分の対象となる違反行為がかなりのスペースを割いて、事細かに定められているが、規定されている条項にぴったり一致することは稀である。そのため「その他前各号に準ずる程度の不都合な行為があった時」という一項を設けておき、この条項を拡大解釈して帰責事由とする場合も多いように思われる。
 しかし、懲戒処分を受けた従業員がこれを受け入れれば問題ないが、対象となっている違反行為がどの条項に当てはまるのかについて疑問を持てば、使用者は納得のいく説明をしなければならない。そればかりか、帰責事由と懲戒処分の程度とのバランスを欠く場合は、当然紛争になり、最終的な決着は法廷に持ち込まれるケースもかなりある。
 具体的事件について懲戒規定の適用が妥当か否かを判断するための原則と言われるものがある。その大きな柱は、罪刑法定主義の原則である。これは「法律がなければ刑罰はない。法律がなければ犯罪はない」という刑法の基本原則である。この考え方が職場の制裁や懲戒に適用されているのが労働基準法であることは間違いない。
 労働基準法89条第1項には、「制裁の定めをする場合においては、その種類および程度に関する事項」を就業規則に記載すべきであると定めてある。これは正しく、懲戒事由と懲戒解雇処分の種類・程度を就業規則や労働協約に明示しておかなければ、懲戒処分できないばかりか、具体的に記載されていなければ適用できないこと意味している。
 この労働基準法89条第1項は、前述のように刑法の「罪刑法定主義」を踏襲したものであると解釈すれば、就業規則・労働協約に明確な規定がなければ、就業規則に違反したとして懲戒処分をすることはできないことになることは明らかである以上、就業規則を作成する場合は、服務規律をできるだけ具体的に定めておくことが必須の条件である。