懲戒処分

 使用者と労働者は、対等な立場で労働契約を結んで経営活動に参加しているので、労働者は就労する義務を負い、経営者は労働の対価として賃金を支払う義務がある。したがって、労働者が労務の提供を怠ったときには、使用者は労働契約の債務不履行を理由に損害賠償請求などの責任を追及することができる権利を有していることになる。
 しかし、懲戒というのは、こうした契約に違反したことを根拠にするというよりは、企業の秩序を乱した場合に課せられる制裁であるという性質のものである。何故ならば、企業は利潤追求活動を効果的かつ効率的に行うことを目的に、能率的な運営を確保することが求められているから、労働者が遵守すべき秩序が存在すると考えるべきである。
 その秩序を体系的にまとめ定めたものが、就業規則の中に定められている服務規律である。すなわち、使用者は労働基準法をはじめとする法律に則り、労働者の行動規範である服務規律を就業規則に盛り込むことが懲戒処分を科す唯一の根拠になるということである。その服務規律の内容を大きく分けると、次の4つに分類されるようである。
 1)出退勤、勤務態度、業務命令、素行等、労務の正常な提供の確保に関する条項、2)使用者に対する信用、名誉、職務上の秘密、地位利用等の使用者と労働者との信頼関係の維持、3)施設利用、怠慢、不注意による災害等、使用者の財産の保全、損害の防止に関する条項、4)施設内でのビラ貼り、集会等、政治活動の禁止に関する条項の4つに分類される。
 企業において懲戒処分を巡り紛争になる場合は、賃金支払いや退職金との関係が絡み複雑になる場合が多いという性質もあるため、一旦対立関係が顕在化すると、その解決は法廷に持ち込まれることも多い。この場合の判定根拠が服務規律違反であるとすれば、使用者、労働者双方にとって判決さえも受け入れられないとしう心情になってしまう。
 法律の条文というものは、その立場によって解釈が右と左に別れるのが常であり、ましてや、使用者サイドが恣意的に定めた服務規律は労働者側から見れば、常に納得のいかない内容であると思えても不思議ではない。服務規律が本来の行動規範として機能するためには、これを尊重すべきであというお互いの信頼関係が基礎になっている。