人件費の節減(賃金カット)

 企業にとっての最大の経費は人件費であるといっても過言ではない。日本では長年にわたって年功序列型の賃金制度をとってきたため、年齢や勤続年数の増加に応じて、毎年1回ないし2回所定の額を昇級するよう就業規則に定めている場合が多い。ただし、昇給の額については明示されていない(賃金表がない)会社も多く見受けられる。
 しかし、現実的に会社の業績が悪化すれば、定期的に昇給するどころか、場合によっては賃金をカットせざるを得ないという状況に追い込まれることもあり得る。かつてのようにインフレ傾向が続いた時は、定昇のほかにベースアップ(賃金表の書き換え)も労働組合との団体交渉で決まるという慣行があったが、支払い能力を無視することはできない。
 昨今は、ベースアップは元より、定昇も実質的にできない中小企業が多いが、「定昇」を就業規則に謳っている以上、例え1円でも昇給させなければならない。こうした場合には、組合(組合がない場合は従業員)に対して、会社の経営状況を誠実に説明し理解を求めるしかない。つまり、定昇の原資がないというだけで定昇をストップさせることはできない。
 ましてや、経費節減のために既存の賃金をカットするとなれば、例えノーワーク・ノーペイの原則には反しないといっても、会社が一方的に就業規則や賃金規定を改定することは許されない。すなわち、こうした行為は労働者の既得権を侵害するものとして、労働条件を低下させてしまう不利益処分とみなされてしまうからである。
 したがって、賃金カットをしたい場合は、労働組合または労働者の同意を得て、就業規則や賃金制度を改定する必要がある。しかし、どのような場合でも、使用者側が一方的に実施できないというわけではなく、一定の要件を満たしていれば、労働者がこれに同意しないからといって、直ちにその適用を拒否できるといものでもない。
 その条件とは、「改定された就業規則が、その必要性および内容の面からみて、労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお、労使関係における法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであること」されている。つまり、労働者の総体的な権利を守るため、やむを得ず改定することが明らかであれば、可能であるということになる。