採用内定の取消し要件

 採用を内定する時点に必要と見込まれた人数と、実際に採用する時点では企業の業績などが著しく変化することもあるので、企業にとって内定の取消しはやむを得ない措置である。しかし、内定を取り消された者にとっては、他の企業に応募すれば採用されていたかもしれないという機会損失を考えれば、企業の都合だけを優先するわけにもいかない。
 このような場合は、客観的にみて合理的な理由が認められれば、法律的な問題にまではならないにしても、経営者側の見通しが甘かったのではという疑念をもたれることがあるとすれば、内定者に対して何らかの誠意を示す必要がある。もちろん、内定を取り消さざるを得なかったというのは表向きの理由であったというのでは論外である。
 よくトラブルになるケースは、業績が悪くなったという理由にかこつけて、内定者の思想や信条などを理由に、内定を取り消した場合、雇用関係の存続の確認、賃金の支払いの訴えを起こされ、この訴えが裁判所から認められれば、内定者は従業員としての地位が認められ、会社は採用日以降の賃金を支払わなければならなくなる。
 こうしたトラブルを防止すべく、行政では、新規学卒者の採用内定取り消しの動きに対応して、事業者が新規学卒者に係る募集の中止および募集人員の削減、採用内定の取消し、入職時期繰り下げ(自宅待機)を行おうとする場合には、予め公共職業安定所または学校に対してその旨を通知させることとした(平成5年4月)。
 この措置により、例えば4月1日に採用が決まっていても、会社の業績が悪く、この日に採用することを見合せて、採用日を遅らせたいという場合、自宅待機を命ずることができる。しかし、当初約束をしていた4月1日が内定者の採用日であることには変わりないので、この場合、労働基準法26条にいう「使用者の責めに帰すべき休業」に当たる。
 したがって、使用者は、自宅待機の期間中平均賃金の60%を支払わなければならないことになる。この場合の平均賃金の計算は、予め賃金額が定められているものについてはその賃金額、自宅待機とならなかったものがある場合は、その賃金額、全員が自宅待機となった場合は、労働契約の成立時に参考として示された金額とすることとしている。