立場を変えて見詰め直す

 どんなに法的規制が強化されても、次々に起こる企業の不祥事を見ると、経営者の視点と消費者の視点の相違によるところが大きいように思われる。最終的な目的は、消費者の支持を得ることにより、企業のビジョンを達成することなので、消費者の視点を無視し続けたのでは、目的を達成することはできないことを熟知しているはずなのにである。
 経営者の視点からすると、消費者の信頼を裏切ることを極端に懼れるあまり、事実を隠ぺいすることになるのだろうが、一旦その隠ぺい工作が発覚すると、取り替えしのつかないほどダメージを受けてしまう。こうした時の従業員の立場もまた微妙で、経営側の立場に批判的であったとして、なかなか内部告発に踏み切れないのが常である。
 現実問題としては、それぞれに護るべきものが多いので、ものごとを是々非々で判断して行動に移すのはリスクが大きいと考えてしまう。しかし、こうした思考様式により蓄積された企業文化ほど怖ろしいものはなく、一旦発覚すると、一気に企業は信用を失い、回復するためには相当の年月とコストが発生することにならざるを得ない。
 問題の本質を企業の視点で捉え解決を図ろうとすると、誤った視点を選んでしまうため、組織の存続を危ういものにしてしまう。こうした結末を迎えてしまうことは、十分学習しているはずなのに、一向に減少しないのは何故なのだろうか。そこには企業の論理が強く働き、第三者的ないしは客観的な視点が抜け落ちているからに他ならない。
 こうした立場によるコンフリクトは、力により解消しようとすればそれだけ望まして解決策が遠のいてしまう。複数の立場から問題を眺めることで、幅広い選択肢がみつかる可能性が高まるので、お互いに違う立場をまず尊重し、相手のコンテクストを理解することである。両者の見方を認め合うことを出発点にしなければ、正しい方向は見えてこない。
 その上で両者を統合する第三者的な立場から、問題を俯瞰し解決の糸口を探っていくことが望ましい。昔から一つ屋根の下で暮らすとか、同じ釜の飯を食うなどという言葉に象徴されるように、もう一段高い位置から全体を見渡すことで、メンバーの立場を超えた第三者的視点で物事が見られるようリードするのがファシリテーターの役割である。