時間的・空間的視点の違いにより起こるコンフリクト

 原子力の平和利用のようなグローバルな問題は、より上位の目的についての認識が一致したとしても、円満な解決に結びつかないという現実がある。これは、長期的な視点で捉えているか、短期的視点で見ているかによっても異なるであろうし、空間的な広がりをどのスケールで設定しているかにもより、利害が対立するためと考えられる。
 こうした状況を抜本的に解決するために、ファシリテーションがどれだけ役立つかは疑問であるが、さりとて、こうした対立を放置したままにしておいてよいというわけではないとすれば、共通認識に辿りつくまで議論を続けるしかない。しかし、お互いの利得を最大に保つことを前提に相手を説得するという旧来のシステム下において解決は望めない。
 企業経営を巡るコンフリクトにおいても同じことで、企業の生き残りをかけて短期的意思決定を指向するトップ、将来のあるべき姿を軸に中長期的な視点から判断する他の役員、社員の継続雇用を大前提に考える人事部長など、異なった意見を調整するのは骨が折れる。こうした場合、抜本的な改革案が見つからないまま問題が先送りされてしまう。
 例えば、業績が悪化しているので、資金繰りがタイトになってきたため、遊休資産の売却や従業員のリストラもやむなしとする社長、そんなことをしては、これまで培ってきた企業イメージが損なわれてしまい、経営ビジョンが達成できなくなる虞があると主張する役員、どんなことをしても雇用を守るべきだという人事部長、などといった構図である。
 どちらの意見も正論であるが、全ての主張を盛り込んだ経営改善計画は策定することはできない。実際に再生計画を策定する場合などでは、これに金融機関の意見も加わるし、その意向を無視するわけにはいかない。それでも、再生計画を策定しないわけにはいかないとすれば、それぞれが主張する根拠を明確にすることから始めなければならない。
 通常、再生計画を策定する場合には、最低でも3回ないし5回程度計画を練り直すことになるが、一見無駄のように見えるこうした作業は、情報を整理するという意味もあるが、大抵は、それぞれの主張によって達成される成果を検証してみるために費やされる。すなわち、時間的・空間的・システム的なスケールの違いを共通の尺度で見直すためである。