他の債権者の抜け駆け防止策

 債権回収でよく問題になるのは、詐害行為取り消しを求めたり、自社が行った行為が取消権の行使により、せっかく取得した担保権を取り消されたりすることである。詐害行詐害行為取消権の行使は、本来、全ての債権者に対して公平に利益をもたらすためのものであるが、実際の訴訟では、減少した債務者の財産を債務者に戻せという形ではない。
 債権者が詐害行為をした他の債権者に対して、一旦取り込んだ資産を自分に戻すように請求することが多い。したがって、訴訟の結果次第で債務者に戻すということにはならないため、債権者同士で和解することが比較的多い。そのこで、債権者としては、一歩後れをとったとしても、倒産直前の資産状況を把握しておけば回収のチャンスはまだある。
 つまり、他の債権者の詐害行為を見つけ出し、取消訴訟を起こすことで和解に持ち込める場合がある。それよりも注意しなければならないことは、詐害行為の対象となる不動産や動産が、既に転売されてしまうということである。こうしたリスクを防止するため、訴訟を提起する前に、処分禁止の仮処分など保全処分をしておくことである。
 それから、債務者が倒産を覚悟した時点で、自社の財産を親兄弟や親戚、友人などの名義に移してしまうことはよくある。こうした行為に対する対抗手段として取られるのが詐害行為取消権であるが、この場合も、善意の第三者を装って詐害行為には当たらないと主張することもあるが、追求のしかたによっては全く脈がないというわけではない。
 こうした詐害行為取消権による訴訟が困難であると判断される場合は、最後の手段として破産の申し立てをすることになる。これは、管財人に否認権を行使させるものであるから、破産財産として配当の原資になるわけである。その他、強制執行免脱罪(強制執行を免れることを目的として財産の隠匿)に当たるとして刑事告訴する手もある。
 いずれにしても、法的手段による回収方法は時間と費用が伴うことは避けられない。しかし、他の債権者の抜け駆けも見逃すことができないとすれば、債権者が共同戦線を引いて、債務者の資産隠しを防止するという手法をとることが安全であることが多い。つまり、抜け駆けは、詐害行為取消権と表裏一体のものであるからである。