究極のリスク管理

 これまで展開してきた議論は、自社の財務内容を健全に保つことを念頭に置いて展開してきたものである。自社が財務リスクに陥る主な原因は、設備投資の失敗、不良在庫の発生、売掛金の回収困難、付加価値生産性の低水準などである。これらは、一見別々の原因のように見えるが、実は販売不振という直接的な原因から生じたものである。
 設備投資に失敗したということは、投下した設備額と売上高がアンバランスであることを意味しているが、設備の回転率が高かったとしても、製品の付加価値が顧客から評価されず利益率が低水準にとどまっているということもある。そのため、設備の減価償却が思うように進まず、結果として設備資金が回収できないという状況に陥ってしまった。
 不良在庫の発生にしても、製品の付加価値生が低いため市場における競争力が低く、計画通りの価格で販売できなかったため、デッドストックが生じたということになるので、品質やサービス、価格、プロモーション、販売チャネルなどのマーケティング展開の問題が背景にあることは間違いない。この場合も資金の還流を阻害する結果になる。
 売掛金の回収が困難になる原因は種々あり、特に債権管理上のシステムに大きな欠陥があることも事実であるが、何といっても、大きな原因は販売不振をカバーするために、過剰な販売攻勢をかけた結果、得意先に対する信用調査がおろそかになってしまったというのが真相である場合が多いことを考えると、やはり売上不振が背景にある。
 付加価値生産性が低いというのは、一般的には製品自体の価値と捉えられることが多いように思われるが、購買者の立場からすると、製品の価値とは、その製品のコアとなる品質(1次品質)だけで判断しているわけではなく、サービスやブランド力などを総合して価値判断をしていることはよく知られていることである。
 こうしたリスクが自社にも取引先にも生じているとしたら、その取り合わせ取引自体が既に大きなリスクを内蔵しているということになる。このように考えると、取引先の経営不振を見抜くということは、自社の体質をチェックして見るのが究極のリスク管理であると言えなくもない。つまり、自社の財務体質が悪化すると取引先の変化が見えなくなる。