手形ジャンプ要請に対する対応

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 取引先が振り出した手形が約束の支払い期日に決済できないので、いわゆる手形ジャンプをしてほしいという要請を受けることはよくある。この要請に応じる場合は、支払期日が迫っている振出手形を回収して新たに支払い期日に変更した手形を振り出すという方法がとられるが、受け取っている側にも事情があるので、簡単には応じられるとは限らない。
 その事情とは、先に受け取っている手形を他の取引先に回してしまっている場合や金融機関などで割り引きして既に現金化し、支払いに充ててしまっている場合が考えられる。こうした場合は、単に手形を差し替えるという単純な手続きだけでは済まされない。場合によれば、自社の信用にもかかわることなので、決済資金を用意する必要が生じてくる。
 また、そうした要件をすべてクリアできるとしても、相手方の術中にはまり込み抜き差しならない状況に陥ってしまう危険性もあるので、そう簡単にはジャンプ要請を受け入れるわけにもいかないが、さりとて、むげにこの要請を突き放せば、不渡りになってしまい、取引先が倒産してしまう可能性が極めて高くなることも懸念される。
 このように、手形のジャンプ要請を受け入れるべきかどうかの判断は、こちらの受け入れ態勢の他に、手形ジャンプの要請に応えることで、取引先が経営危機を脱することができるのだろうかという心配も深まるはずである。つまり、この要請を受け入れるべきかどうかの判断は、相手方の経営状態を把握することが先決であるということである。
 そして、もしも手形ジャンプ要請に応じることが決定した場合には、単に手形を差し替えるのではなく、必ず手形ジャンプを依頼する理由と差し替えの趣旨を明記した手形ジャンプ依頼書を入手しておくことが肝要である。何故なら、手形のみの交換では、古い手形と新しい手形の関連性が不明になり、債務の同一性が確認できなくなってしまう。
 特に、この手形が担保や保証がついている場合、同一債務であることが確認できないと、更改とみなされ、全く新しい債務となってしまうため、担保や保証の被担保債務ではないと主張される虞がある。このような観点から考えると、手形のジャンプ要請に対しては、相手先の経営状態や当社の資金調達力、担保・保証など総合的に検討する必要がある。