債権保全の準備

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 取引先の信用不安が明らかになった場合は、何らかの債権保全手段を講じなければならないが、その際に問題になるのが、通常の取引で既に発生している債権をどのようにして回収するかということである。そしてもう一つは、これ以上損失を増やさないようにするためには、どのような手段を講じたらよいのかという点である。
 既に発生している債権の回収手段を決める前に、まず、取引先との債権債務、取引残高、契約残などを確認し文書にしておく。この前段階の処置は本社ばかりではなく、支店や営業所、工場、子会社、その他の関連会社も含めて調べておくことも含まれる。これは、軽々に保全手段を講じてしまうと、損害賠償請求という逆ネジを食う虞があるからである。
 次に現在の取引状況を踏まえて、どのような制限措置を講ずるべきかを判断しなければならない。一般的に取られる手段としては、一時的に出荷を停止する、あるいは現金取引にする、抵当権の設定や担保・保証金の積み増し、経営者や他の有力な第三者による保証の取り付け、取引先の債権譲渡などが主なものとして考えられる。
 特に代表者の個人保証を取り付けることができれば、個人にも請求できる権利が確保できるので、会社に債務の履行を促す場合有利になる。個人保証の場合は、保証債務の履行請求、放漫経営による商法の規定に基づき請求できる場合は、損害賠償請求となるので、代表者個人の資産を把握しておくことは、こうした意味すらも重要な意味を持つ。
 しかし、こうした交渉に取引先が応じられる状況ではないことの方が多い。そうした場合、納品した商品を引き揚げるとか、機械などの場合は所有権を移転してしまうなども有効である。しかし、この場合注意しなければならないのは、その行為によって生じた所有権を第三者に対してどのように明示するかが問題になる。
 取引先が抜本的な経営改善計画を打ち出し、金融機関を始めとする多くの債権者がこれに同意した場合は、その決定に従うことになるとしても、債権者会議などで有利な回収条件を勝ち取るためにも、債権保全のため事前に対策を講じておくことは最小限必要となるので、迅速な情報収集に基づく意思決定を急がなければならない。