推定のコツは因数分解

 種々雑多なデータのなかから必要なものを取り出し、一つの情報に作り変えるには相当エネルギーが要求されるが、そのデータの集団が小さかったり少なかったりする場合は、当然分析も比較的簡単であるというということは、多くの人が実感しているはずである。例えば、町中の人のことを全て把握することはできないが、近所のことはよくわかる。
 このように考えれば、町全体を知る必要があるときは、町を隣近所の集合体と捉えればよいことになるので、ご近所を良く観察することで、町全体の様子を推定できる。つまり、推定とは、より身近で計測しやすいデータに着目し、これを全体に換算するというシンプルな方法を考え出すことが基本的な取組姿勢であるといってよい。
 つまり、最終的な算出方法は、四則演算以上の高度なテクニックを用いる必要はないわけであるが、どのように全体を分割して計算対象にするかという問題は想像以上に難しい。というのは、どんな根拠で分割して扱うのがベターなのかということを仮説思考で迫る必要が生じてくるので、ここで方向の選択を間違えると迷路に入り込んでしまう。
 ロジカルシンキングでは、MECEに枠組みを分割してモレやダブリを防止するアプローチをするが、これには決まった方法があるわけではなく、何について議論を展開し結論を得ようとしているのかによって全く違ってくる。こうした考え方に習熟していない場合は、推定すること以前の段階でその複雑さに降参してしまうことになるかもしれない。
 フェルミ推定が編み出された理由は、正確な答えを厳密に追求するのではなく、大よその見当をつけることにより、仕事に必要な時間配分を決めたり、予算付けをするといった場合の目安を簡便に手に入れるコツとして示すことにあったと思われるが、学問的に体系づけようと思ったとたん、複雑であるという先入観に苛まれ敬遠してしまう。
 しかし、こうしたわずらわしい考え方に捉われず、毎日の日常生活で素朴に浮かぶ疑問を処理する便利な手法と割り切れば、誰にでも取り組める魔法の鏡となり、手元において磨きをかければ、自分の行動様式やライフスタイルをより豊かにする知恵にもなる。そうすれば得意の四則演算も十分活用できるので、是非活用したい考え方である。