職能給型へのコンピテンシーの活用

 日本の中小企業の給与制度は、大きく分けると職務給型と職能給型に分けられる。給与体系の名称としては実に様々であり、年俸制を初めとする成果給型も散見されるが、純然たる属職級あるいは属人給と言えるものは少ないように思われる。いずれの制度を採用しているにせよ、社員の側から見ると公正性が保たれているとは評価しがたい面がある。
 職務給型の制度をとっている企業の場合は、仕事の出来ばえというよりも、その仕事に要求される職務を遂行することが給与水準として決められているので、コンピテンシーを導入する場合でも、職責を全うしたかどうかを評価することは絶対条件となっているため、職責とコンピテンシーによる評価が併用されることになることは前述の通りである。
 一方の職能給型は、従来から職務遂行能力に重点をおいてレベルを決めていたので、「何々することができる」という形で職能要件書に記述されていた。コンピテンシーの考え方は、成果に重きをおくので、潜在的な職務遂行能力ではなく、発揮能力を評価するものであるから、従来の記述書を発揮能力評価型にリフォームすることで足りる。
 もちろん、こうした力技はあまりにも乱暴すぎるという批判はあるかもしれない。しかし、制度改革が目指しているところは、「能力の発揮度」と「成果」の因果関係を明確に測定できるようにすることであり、制度自体に拘り過ぎても意味がないはずである。現にコンピテンシーを導入した企業が理想的な制度運用ができているとは限らないからである。
 より現実的にいうと、社員にとって基本給は生活給であり、この部分の財源を確保することは、企業にとっても理屈抜きに考えなければならないことなので、勤続年数や経験、年齢などはコンピテンシーの有無とは無関係に確保されなければならないから、全てを「成果」で測るのというのは、中小企業の現況には適しないように思われる。
 基本給はその人の現在価値であるというコンセンサスが社内に確立されていなければ、社員の潜在能力を開発する以外にないわけであるから、コンピテンシーを定義して、社員個々人の能力を開発するために活用される仕組みにすることが最大のポイントである。そうした底上げが完了した時点でなければ、完全な成果主義に移行すべきではない。