職務給型へのコンピテンシーの活用

 コンピテンシーは人そのものが分析対象となるが、職務給型は職務記述書を用いて職務ごとに詳細に職務を定義している。そのため、職務内容が具体的に示されているので、環境変化に対応するために組織改編が必要となる場合や人事配置に支障をきたすという欠点があるが、運用次第では職務とその担当者の双方を分析対象とすることも可能となる。
 また、目標管理型人事評価制度を採用している場合は、上司、本人共に評価に直結することになるから、各期の業績目標が設定される。この場合、実質的には業績目標が職務内容となってしまうため、目標管理制度の下では職務記述書は形骸化したものとなってしまうことになり、職務給型として運用する意味も薄れてしまう。
 しかし、職能給型にコンピテンシーを定義して運用すると、今度は職責が曖昧になり、誰がどんな職務責任を担っているか、誰が課題や目標を与えているかという等級制度そのものが不鮮明になってしまい、やはり、目標管理制度により毎期の目標設定をせざるを得なくなるというジレンマに陥ってしまい、職能資格制度もまた形骸化してしまう。
 そこで考え出されたのが、役割を包括的に定義して職責を明確化すると同時にコンピテンシーも分析対象にするという二元的な運用方法である。このスタイルで人事制度を設計する場合は、まず人事評価の対象として全社的に共通のコンピテンシーや各部所特有の専門コンピテンシーを分析し、同時に職責も職務分析の対象とする。
 具体的には、分析要素ごとに4から7段階に分けられた評価段階で職務と人を評価し、その点数を集計して、対応職務と当事者のトータル点数が計算される。等級はこの点数ゾーンに応じて設定されることになる。つまり、職責とコンピテンシーの両方をにらみ、バランスをとることで、人事制度の体裁を整えるという折衷案である。
 ただし、このやり方には少し違和感がある。すなわち、職務給型であれ職能給型であれ、目指しているところは、いかにして業績を上げるかということを目的とした制度である以上、職責を全うすることと高業績を上げることとの間には、何らかの因果関係があるはずなので、コンピテンシーを職責の中に組み込めるはずだからである。