コンピテンシー辞書の基本構成

 コンピテンシー辞書の基本構成をみると、職種や業種などの専門分野ごとに設定される専門のコンピテンシー、企業人として全社共通に持っているべきコンピテンシー、そして自己統御や自己変革、他社との連携など個人が持っている特有のコンピテンシーに分けられていることが多いようである。つまり、木に例えると、枝と幹と根の関係である。
 この関係を整理しないまま、いきなり高業績者にインビューすると、たちまちデータの山ができてしまうことは前述のとおりであるが、ここでなぜ職能ではなくてコンピテンシーなのかをもう一度確認しておく必要がある。職能とは能力を保有しているかどうかを評価するのに対して、コンピテンシーは能力の発揮度を評価している。
 ということは、人の能力はどうでもよく成果さえ出せば評価できるということではない。つまり、成果に結びつく能力とはどんなものかを定義しておくことにより、これを教育訓練などで鍛えることを目指しているといことである。その能力の分類が、専門のコンピテンシー、共通のコンピテンシー、固有のコンピテンシーということになるわけである。
 これは多変量解析でよく例に上げられる文科系能力と理科系能力、そして個人特有の能力によって、その人の特性を評価するのと似ている。このように考えると、能力を構成するものについて明確に定義しおかなければ、社員は、どこをどう改善すれば、高業績を上げられるようになれるのか見当がつかず、戸惑うことになるからである。
 多くの企業では、社員の能力を高めることを目指して、研修に多くの時間を費やしているが、その成果は費用対効果で見れば、必ずしも満足いくものではないように思われる。研修を受ける社員にとって、どんな能力を身につけるために研修に参加しているのかが意識できなければ、無味乾燥なものとして拒絶反応を起こしてしまう。
 こうした実りの少ない研修体系を、未だに引きずっている企業は意外に多いが、これは総合点主義や平均点主義の学校教育にその原点があるようにも思えるが、業種や職種によって明らかに必要な能力が異なるビジネスの世界にあっては、コンピテンシーを定義しておくことの意義を再確認しておくことが必要不可欠な要件である。