制度ありきではモチベーションが失われる

 コンピテンシーを導入すること決めたとして、さて何から始めるかということになると、まず、各部門で高い業績を上げている社員をリストアップし、ヒアリングを開始することになるであろう。そして実際にヒアリングが始まると、すぐに壁に突き当たってしまうことが多い。そこにはたちまちデータの山ができてしまうからである。
 それぞれの第一人者たちは、それぞれに成功体験を語るので、一つひとつは説得力をもつものであったとしても、それがその一人が担っている職務を遂行するために最も重要であるかどうかは容易に判別がつかない。そこで、取りあえずあれもこれも捨てがたいと判断した結果、データの山ができてしまいコンピテンシーとして特定できない。
 特に、自社に特有のコンピテンシーであるかどうかは判別がつかず、一般的に優秀であると評価される人に共通しているものであることに気づかされる。こうなると、やはり専門のコンサルタントに委託しようということになり兼ねない。そうなると、コンピテンシーがどんなものであるかを把握しきれないまま制度が出来上がってしまう。
 こうなってしまっては、社内の誰もが特定の能力や行動との因果関係を把握していないまま、能力を高めるために努力するという奇妙な制度になってしまうので、形だけあるいは掛け声だけの制度に終わってしまう虞がある。手間暇かけて導入したコンピテンシーではあるが、結局は何も変わらず、昔の職能資格制度に逆戻りしてしまう。
 新しい道具を導入して、新しい評価尺度で評価しようとする試みはよしとしても、その真価を理解していないのでは、効果が薄いのは当然のことであり、制度導入を焦ると本来の目的も見えづらくなってしまうことはよくある。コンピテンシー導入の目的は、経営戦略を推進するに相応しい人材をどのようにして見つけ出すかにある。
 コンピテンシー辞書を構築するために、高業績を上げている社員にインタビューするというのは、予め職遂行能力や発揮能力がどのようなものであるかの予測がある程度ついている場合である。それに、高業績は能力だけでは語れない場合もあり、特に環境との関係も見極めなければ、結果を評価できないという側面も理解しなければならない。