顧客離れ防止策

 顧客が離脱するパターンは実に多様であり、一元的には捉えられないので、その防止策を予め用意しておくことは難しい。しかし、多くの場合、顧客が離脱するきっかけとなっているのが、他社製品の強力な売り込みにあることも事実である以上、過去の販売データを分析し、離脱の予兆を察知できるシステムを構築しておくことはある程度可能である。
 通常は、過去に離脱した顧客のデータは抹消されてしまうことも多いものと思われるが、そこに隠されている原因を把握しておくことができれば、おのずとその防止策も見えてくるはずなので、大きな原因だけでも分析し、その検証の結果をパターン化しておくことはCRMを実践するための基本姿勢にも叶うものであることは明らかである。
 顧客の離脱を防ぐと言っても、全ての顧客を自社のコーナーに繋ぎとめておくことが目的ではなく、自社のUVPの価値を認めてくれる顧客群をセグメントし、価値ある商品を提供するのが目的であるから、ただ闇雲に顧客の離脱を防止しようとすれば、既存の優良顧客の反発を招くことにもなり兼ねないことに注意しなければならない。
 企業によっては、未だに売上主義に徹していて、CRMを実践するスタンスからは程遠いと思われる顧客を後生大事に守っているため、収益力がどんどん低下しているという場合も珍しくはない。こうした企業は、供給力を遥かに上回る需要があった時代に拡大した設備や投入した営業マンの力技に頼り過ぎている場合が多い。
 新規顧客の獲得には過大なコストがかかるわけであるから、一旦リピート客となれば、そのロイヤリティを高めるための方策を採るのは当然であるが、元々自社にとってCRM実践の観点からみて、優先すべき顧客であったかどうかが問題であり、直前の取引額の大きさによって判断するのはあまり意味がない場合もあるはずである。
 既存顧客のセグメントを十分に把握し、そのセグメントに相応しい提案を試行していれば、それ自体顧客の離脱防止策にもなる。すでに離脱した顧客を分析するということは、現在の顧客の満足度を向上させるためにこそ活用されるべきであり、そのことがとりもなおさず、顧客の離脱を防止する最大の方策ということになるのである。