仮説を立てるためのデータ収集(その1)

 情報とは情に報いることである。すなわち、情報とは何をしたいかを明確に意識した時に、その目標を達成するための意思決定に必要かつ有効であるデータが情報ということになる。したがって、データ=情報という認識にはならないことを理解すべきであるが、得てして情報の収集こそが、課題解決の手掛かりとばかり考えた行動が目につく。
 ある企業で販売促進に関するセミナーを行ったところ、顧客情報がすべてであるという言葉のみを鵜呑みにし、全ての顧客情報を網羅的に収集することと虚解して、情報収集のフォーマットを作り、営業マンにそれを埋めるよう指示したが、収集された情報を活用した仮説を殆ど立てることができなかったと嘆いていた。
 前述のように、何のために情報が必要かという視点が欠けていたため、情報収集に要した手間暇を考えると「収集」自体が目的化されてしまったのである。売上の低下の原因を究明し、販売促進に関する仮説を立てるという目的を明確にするためには、売上低下の原因分析のフレームを考えなければならないということである。
 この場合の着眼点が、市場規模が縮小したのではないかと思われるのであれば、その製品全体の市場の売上高に関するデータを収集することになるだろうし、市場における自社のシェアが低下したのではないかという着眼ならば、自社のシェア、競合他社のシェア、新規参入者のシェア、代替品のシェアなどについて調べるべきである。
 その上でこれを細分化し、地域や個別製品のライン、店舗別、価格帯、低下しはじめた時期、担当営業マン別の変化などにブレークダウンしていくことが大事である。こうした検証システムが既に構築されているのであれば、日常のマネジメントサイクルの中に、計画と実績の差異分析が組み込まれている筈で、着眼点も分類視点も明確にされている。
 売上低下の原因を究明するために仮説を立てるための着眼点と分類視点を事前に設定しておくことで、仮説の精度はその都度高まってくるはずなので、検証サイクルはどんどんスピードを増してくる。こうしたシステムを構築することなく、販売促進のためには情報の収集が不可欠という思い込みだけでデータを収集しても実効は上がるはずがない。