自問自答を繰り返す

 先日ある会社の社長に、企業はトラブルの宝庫だといったら、その通りだという答えが返ってきた。取引を巡るトラブルをはじめ、労務管理上の問題、後継者問題などあげればきりがないほどトラブルがあり、これを処理することに日夜奮闘している。どれ一つとっても簡単に解決できることはないといっていいほどトラブルは多い。
 そうした場合、解決策を練ることになり、この場合はあらゆる角度から仮説を立て検証することになるわけだが、問題解決のためにはあらゆる角度からの検討が必要で、時には、相手が予想外に攻撃してくることを想定しておかなければならないこともある。したがって、こうした事態に対処するためには想定問答を繰り返し行わなければならない。
 その問答の中には、自社にとって有利なものばかりではないので、意地悪質問に等しいような反論も敢えて想定する必要があるのだが、自社から見れば、不合理極まりないということで激怒し、あなたはどちらの見方なのかいわれることもある。しかし、それは私がそう反論するのではなく、相手がもしそう反論したらどう切り返すのかということである。
 争いごとというものは、常軌を逸しているからこそトラブルなのであり、良識の範囲内でお互いに解決しようというルールがあれば、それほど難しくはないはずである。ところが、一旦トラブルになってしまうと、常識では考えられないような議論が飛び出し、自分の正当性を主張するのが常であるから、経済的合理性からいうとダメージがかなり大きい。
 それにも関わらず、裁判にでもなろうものなら、相手を打ち負かすためなら経済的損失など問題ではないとばかりの戦闘モードになってしまう。こうした泥沼に足を踏み入れないためにも、ゲーム理論を応用した痛み分けを模索するのが賢明であることは誰でも承知している。そのためには、仮説思考による想定問答を繰り返すしかない。
 例えトラブルの発生は避けられなかったとしても、その処理に関して、想定問答を頭の中で繰り返すことにより、できるだけ早期にトラブルを解決したいという相手の意向も十分に汲むことができれば、決定的に溝を深めることにはならない。こうして仮説を成長させることにより、トラブル解決の落とし所を見つけ出すことができるようになる。