ビジネスは時間との戦い

 ビジネスにおいて仮説思考が重要である理由の一つは、時間的制約の中で迅速に意思決定を行わなければならないということである。学術的な研究などの場合は、情報の収集に多少時間をかけたとしても精度の高い仮説が生まれるというのであれば、それなりの価値があるかもしれないが、ビジネスでは最適なタイミングが要求される。
 しかしながら、スピードを重んじるビジネスの世界においても、最適な戦略を選択したいと願っていることには変わりないので、迅速と最適のバランスをどの辺で折り合いをつけるかが問題となる。昨今のように新しいビジネスモデルを導入するタイミングを間違えると折角の戦略が他社の後塵を拝することにもなりかねない。
 新商品の導入についても然りで、消費者の志向変化を先取りする経験則が働いていなければ、たちまち市場から排除されてしまう。市場が発する情報量は膨大でかつ流動的である場合が多いので、そのメガトレンドを掴まえておくのは難しいが、自社の経営資源を踏まえたうえで仮説を立てることは最低限必要である。
 つまり、全体市場を対象としてマーケティングを展開する巨大企業であれば、市場の変化も想定内と捉えることも可能であろうが、経営資源が脆弱な中小企業にとっては、全体市場を対象とするにはあまりもリスクが高すぎる。全体市場をある基準によりセグメンテーションしておくことで、自社の存立基盤を効率よくリサーチしておくことができる。
 その場合のリサーチは仮説検証サイクルを回すことによって支えられている。すなわち、常にその時点において仮説を立てていることになるので、市場や消費者志向の変化に迅速かつ柔軟に対応することができる。このように新商品の導入時期や新しいビジネスモデルの開発は時間との戦いにおいて位置づけられてこそ意味がある。
 また、ここでは事前に意識して、変化の兆しをタイミングよく捉えるシステム的思考を根づかせておくことも必要である。例えば、商品のライフサイクルがどのステージに突入したのかを判断する現象を、売上の低下におくのか、相対的シェアの低下におくのかによって、次の戦略仮説の立てる次期も異なってくることになる。