決断できる能力

 会社役員が物事を判断するためには、自分個人の判断基準もさることながら、企業が掲げている自社の目的や行動規範といった経営理念、ビジョンに則したものでなければならない。しかし、日々刻々と変化する環境下においては、十分な判断材料や時間がないまま、重大な決断を迫られるという場面も必ずある筈である。
 そうした場合は、経営理念やビジョンと最終的には矛盾することはないにしても、全ての結果を瞬時に予測して決断を下さなければならないから、大きなリスクを背負い込むことも覚悟しなければならない。直感力とはこうした場合に威力を発揮するもので、苦し紛れの山カンとは異なるれっきとした能力なのである。
 経営活動はすべからく市場における競争がベースであるから、他社の動向次第では、市場シェアが脅かされる危険を生じることもあり得る。競争環境や内部資源の分析を行い、自社の強みを生かし、弱みを補強する戦略を打ち出すための戦略判断をしなければならない。これには仮説と検証というサイクルの中で判断が下される。
 特に、市場における自社商品のポジションや相対的シェアの変化には十分気配りをし、PPMによりキャッシュフローを生み出す構造を模索し、同時にリスクを最小に抑える判断基準を構築しておかなければならない。そのためには、DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー分析)により、新規投資の価値判断も当然含まれる。
 DCFの考え方は、M&Aや新規投資、撤退などに際して、当該事業の事業期間に応じた将来のキャッシュフローをベースにしたものである。つまり、損益計算書による利益の概念とは異なり、どのようなスピードでキャッシュを生み出すかを事前測定することにより、M&Aや新規投資の価値判断をするものである。
 更に、リスク分析という視点も欠かせない。新規事業やプロジェクトにはリスクはつきものであるから、DCFにより算出されたキャッシュフローの裏側には、何らかのリスクが潜んでいると見るべきである。企業の成長とリスクを調整し、経営活動を安定したものに保つための意思決定能力が求められていることになる。