費用の性質の分解

 企業の経営分析を行う際、売上高の実現に貢献している費用を感度分析によって測定してみると、費用の意外な側面に気がつくことがある。例えば、売上高を時系列に並べこれに対応する費用との相関関係をみてみると、製造原価に含まれる人件費が大きく貢献している場合もあれば、反対に販売費・管理費に属する人件費が貢献している場合もある。
 こうした現象を表面的にみると、人員の投入量との因果関係が強いように見えるが、実は技術力などの質的な充実度が高付加価値をもたらしているため、これらの人材に対する投資が売上を支えているという構造になっている場合もあるし、営業マンや役員の販売力によって支えられている場合もある。つまり、それぞれの企業によって異なるのである。
 また、こうした構造の背景には市場の競争環境があるはずなので、新規事業を立ち上げる場合には、どちらに重点を置くべきかについては、明確な根拠をもって決定しなければならない。少なくとも、勘定科目法によって振り分けるという単純な作業ではないので、業種特性を十分研究した結果を基に仮説を立てる必要がある。
 具体的な手法としては、売上高と総費用の各勘定科目の関係を変動分析によって、固定費と変動費に分解した業界指標にまず着目する。この費用の性質を参考にしながら、自社のあるいは新規事業の特性を勘案しながら、売上高、付加価値率、付加価値生産性、労働分配率の関係式を作りシミュレーションしてみることである。
 自社に類似のデータがあれば、費用の分解と売上高や利益貢献度を感度分析で重みづけを測定してみることもできるので、新規事業にも応用できる場合もある。こうした分析結果を踏まえて、変動費と固定費を区分して損益計算書に反映させれば、よりフレキシブルで管理可能な事業計画書が作成されることになる。
 事業計画書の段階では、外部報告を主な目的としている財務会計や税務会計形式にとらわれる必要はなく、費用対効果に着目した見積損益計算書を作成すべきである。計画が実行され、その結果を差異分析する場合でも、変動費と固定費の性格が明確に区分されていれば、統制可能原価であるかどうかも事前に把握できるので、分析の精度も高まる。