全社的展開の限界

 バランス・スコアカードは、その拠って立つ根拠からいえば階層的に全社で展開するのが望ましいことになる。つまり、部・課・係り・個人単位にまで適用するのが理想かもしれない。しかし、バランス・スコアカードの導入の目的は、経営目標を最も確実に達成する方法を探り足し、確実に成果を上げることであるから、ある意味仮説の連続である。
 したがって、これをあまり細かい単位に適用すると、各業績指標間の相関関係に矛盾を生じることが起こり得る。つまり、各指評価指標間だけで純粋に因果関係が成り立っているということはまれである。例えば、売上高を獲得するための評価指標と利益を獲得するための評価指標とでは、かなり負の相関があることはまれではない。
 また、当然この両者に同時に影響を与えている評価指標も存在するので、これらを4つの視点からみて、整合性のある評価指標として捉えるのは困難である。更にこれらの業績指標の妥当性は、ある一定の安定した期間を前提にして設定されるものであるから、市場環境や技術革新などによって、前提条件が崩れてしまうこともあり得る。
 バランス・スコアカードといえども、所詮は過去情報を基にして情報を加工し、仮説思考により設計したものである以上、これをもって絶対的な評価とすること自体問題なしとしない。むしろ、最終的な財務目標を与えておき、環境の変化に対応しながらフレキシブに評価指標のウエイトを調整する裁量幅を現場に持たせるほうが良い場合だってある。
 しかし、それでは全ての行動がバラバラになってしまい、組織としての協働力が削がれてしまうという反論もあるであろう。それも最もだと考えるのであれば、結局のところ、両者の意見を取り入れた折衷案を見出すしかないであろう。そうであるとすれば、バランス・スコアカードを金科玉条のものと位置づけるべきではない。
 バランス・スコアカードも1つの経営管理手法であるがゆえに、管理する側と管理される側という関係の中に成り立つものである。定量的に経営の進捗状況を測定しようとする場合、そこに定義された戦略テーマや業績評価指標の妥当性と計測された数字の信憑性が、バランス・スコアカードの品質を担保することになるのである。