バランス・スコアカードの並列的展開

 バランス・スコアカードを全社的に展開する場合、まず全社のバランス・スコアカードが設計され、次に事業部および部単位のバランス・スコアカードが導入され、従業員レベルの目標管理制度として運用される。一つの事業部、一つの部門を対象としている場合は、業績評価指標間の因果関係も連鎖的に掴まえられるが、横系列に広げるとなると難しい。
 何故なれば、階層化と横系列が複雑に絡み合うことにより、全社的な目標と部門の目標の間の協働関係が希薄になりがちになるからである。組織が肥大化すれば、部門や職場の文化に微妙な温度差が生じ、あたかも他社の組織であると見紛うばかりのコンフリクトが生じてしまうことがある。この辺のボタンの掛け違いはそう簡単には是正できない。
 しかし、基本的には、全社の目指す方向に対して各組織(事業部門)が狙うミッションは何か、そのミッションを達成するための具体的な市場差別化要因(戦略)は何かを明確化するところから始めるのは、モデル導入の場合と何ら変わりはないから、全社的戦略を各部門がそれぞれどのように担当するかを明らかにするだけのことである。
 モデル事業と並ぶ他の事業部門も同様の進め方が可能であるとすれば、戦略テーマあげて戦略マップを作成することについても同様のであり、先行しているモデル事業と対象組織の大きさに合わせて、戦略テーマとテーマごとの業績評価指標を設定していくことで足りるが、実際の設計・導入・運用は事業部独自で行わなければならない。
 事業部単位で推進担当者を決め、説明会を開催するなどの措置は講じられ、ある程度時間をかけ、ワークショップの活用をはじめとする、ディスカッションなども行われ、バランス・スコアカードの仕組みを学びながら、疑似体験的に戦略マップ作りにも挑戦してもらうという形式で行われる。いわゆる参加型形式で行われるわけである。
 この説明会の中で最も重視しなければならないのは、ミッションの定義と戦略テーマのリストアップ、テーマごとの目標(業績評価基準)を議論していくことである。ここで用いられるアプローチ手法は演繹的方法である。それぞれの業績評価指標間の相関係数が1であることはあり得ないので、これらの連鎖の結果には誤差が生じるのはやむを得ない。