KPIツリーによる因果関係

 戦略テーマを視点ごとに分類し、相互の因果関係を明らかにしながら経営戦略をストーリーにしたものが戦略マップである。それぞれの戦略テーマの達成度合いを、測定する業績評価指標を設定したならば、その指標同士の因果関係も明らかになるはずである。というより、戦略マップ上の各テーマ間の業績評価指標同士の因果によって構成されている。
 例えば、売上高の拡大を戦略テーマとして掲げたのであれば、アウトプット評価指標は、「新商品売上高」「既存商品売上高」ということになるから、「リピート率の向上」「成約件数の増加」などによって支えられているという因果関係に辿りつく。更にこの指標と関連の深いプロセス評価指標は何かという仮説思考で因果の連鎖を明らかにしていく。
 これらの因果関係は、演繹的な論理で説明できればより確かなものになる理屈であるが、その場合はすでに真理として確立されているということであるから、同業他社も当然そのレベルまでは到達しているはずである。差別的優位性をもった重要成功要因を見つけ出すためには、仮説思考を積み上げていくしかないのである。
 バランス・スコアカードの導入過程では、既に検証されている因果関係はないのが普通であるから、通常は関係者の間で議論を行い、その意見を集約する形で利用すべき業績評価指標、採用すべきデータを選択していく。これは従来からあったデュポン方式の因果連鎖と同じ考え方であり、ここではこれをKPIツリーと呼んでいるに過ぎない。
 このKPIツリーは、指標間の因果関係を、ひとまず視点を気にせずに表し、戦略テーマ一つに対して、そのテーマの進捗状況を測定する評価指標を最上位に据え、ここに至る指標を因果関係の順につなげていく。そのため、アウトプット評価指標の欄に戦略マップ上の他の戦略マップに関する指標が入ることもあり得る。
 導入過程においては、こうした重複や欠落を発見するというプロセスは避けて通れないが、そのことはバランス・スコアカードがより実践的な運用に耐えうるものになるためには決して無駄な作業ではない。こうした仮説思考による因果関係の測定こそが、バリューチェーンの構図をより強固なものに仕上げていく道筋である。
 すなわち、より確からしい因果関係の仮説を図式化するということは、戦略テーマの達成度を高めるためのものであるから、中間指標として何を向上させなければならないかという絞り込みの方向もおのずから定まるという考え方に依拠しているものであり、科学的な根拠により、普遍的な結論を一気に導くための手法ではない。