衛生要因と動機づけ要因

 社員満足度を理解するためのキーワードの一つに「衛生要要因」がある。これは、あることが期待要求水準に満たない場合に、著しく総合的な満足度を下げてしまう要因である。その反面、何らかの方法を講じて期待要求水準を高めて充足しても、総合的な満足度を上げることはできないという特徴がある要因である。
 例えば、モラール・サーベイを行い給与水準の満足度を聞いてみると、多くの企業では「やや不満」という程度の回答が多いが、単に給与水準を引き上げても、総合的な満足度は大きく変わることはない場合がある。給与水準そのものよりも、給与を決定する仕組みに問題があれば、水準を引き上げるだけでは不満解消にはならないというわけである。
 しかし、衛生要因は不満の解消の要因であることには変わりないので、少なくとも最低水準を保つことが社員満足を保つためには必要不可欠である。この要因としては、給与の一定水準を始め、会社の経営方針およびマネジメント、上下関係のコミュニケーション、作業条件、職場環境、などが典型的なものである。
 もう一つの要因は「動機づけ要因」である。衛生要因と対をなすものである動機づけ要因は、全体としては不満足な要因が多い場合でも、特筆すべきものがあるといった時、全体の満足度を著しく向上せる。例えば、仕事が面白いので全体の不満要因を打ち消してしまい、総合的な満足度をかなりの水準で維持できているという場合などである。
 ということは、本来の意味において社員の「やる気」を引きだすためには、動機づけ要因を喚起する必要があるということになる。動機づけ要因の代表的なものは、達成、承認、仕事そのものに対する興味(適職感)、責任、昇進などがある。特に、達成、承認、仕事そのものに対する興味の3つは、仕事に対する意欲や情熱を持続させる代表的な要因である。
 これらの動機づけ要因は、職場環境の整備など衛生的要因の改善によって刺激される部分もあるが、仕事そのものに対する興味のように、パーソナルな部分もあるので、制度的な側面からのアプローチだけでは成果が期待できない面もある。したがって、この動機づけには、いわゆる「やる気」を喚起する働きかけが必要となる。