仮説を立てる目的は通常二つ考えられる。一つは積極的に到達すべき目標を掲げ、これを達成するための最良の手段としての仮説である。この場合は、現状において把握できているあるいは出来る可能性のある情報に基づいて、結果をもたらす要因を検証しながら出来うる限り精度の高い仮説を立てることである。
もう一つは、積極的な目標というよりは、リスク管理のような問題発生を防止しようとする場合であるが、この場合も、アプローチの方向が逆であるだけで、思考様式そのものには何ら変りはないが、現実にリスクを起こしてみるという検証の仕方は選べない。そこで必要となるのがシミュレーションということになるであろう。
例えば、喫煙は飲酒よりも数倍ガンになる確率が高いといわれていることは、現代社会では常識に近いことであるが、これをどの確度から目的を設定するかで検証のアプローチが異なる。もし仮にガンの特効薬を開発することが目的であれば、ガンになるメカニズムや臨床実験のデータを用いて仮説を立て検証するという手法をとるであろう。
しかし、ガンを予防するというリスク管理として位置づけた場合は、タバコの喫煙数とガン発症の確率という因果関係に重点を置いた仮説と検証のスパイラルによって、確度の高い結論を導こうとする。初期の段階では精度の高い仮説は望めなくとも、これを検証することにより、幾つかの真実が見えてくるはずである。
このように、仮説と検証を繰り返す過程で真実が見つかる可能性が高いが、偶然に発見することはめったにないことは誰でも理解できる。優れた仮説は単なる推測や憶測ではなく、それなりの根拠をもった説得力に支えられているが、その説得力とは、仮説検証のスパイラルの賜物であることを認識しなければならない。
つまり、優れた仮説力は才能ではなく、仮説検証のスパイラルを数多く経験したことの証しなのである。経済見通しなどがよく外れるのは、前提となる状況分析が不十分であるのに、これを基礎に仮説思考を再構築するためであるが、これとても、仮説検証スパイラルの結果を反映して、徐々にではあるが精度は高められつつある。
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