情報発信で興味を誘う

 人は誰でも大なり小なり失敗した経験を持っているものである。特に高額の商品を衝動的に購買してしまい、二度とセールスマンの誘いなどにはのるまいと心に誓う。こうした経験がトラウマになり、かなり魅力的に見える情報を提示されても、自らの手で情報を収集したものでなければ、にわかには信用できないという姿勢を示すことはよくある。
 このような心理状態にある場合、どんなに説得力のある提案を行っても、相手の心に届かなければ成約には結びつかない。仕事熱心な営業マンが陥ってしまいがちパターンは、相手の心理を説得と言う武器で論破しようとするので、その熱心さがあだになり、相手のガードをますます高く固いものにしてしまう虞がある。
 営業活動もある種の説得であるという側面はあるものの、相手の深層心理を理解しようとせず、一方的に専門知識をぶつけただけでは、相手のニーズを掘り起こすことにはならない。人はある商品を欲しいと自覚する前に、その商品を購入することにより、どのような問題を解決したいのかを明確に意識する段階を経る。
 ニーズあるいはウオンツが育ってくると、これを解決する最適な手段を見つけるために情報収集活動を行う。営業マンの仕事は、この段階にあるであろうと推察される層めがけて有用な解決手段を情報のパッケージにして提供することである。つまり、営業マンの側からすれば、仮説を立てることから情報の質量が特定されるわけである。
 熱心な割りには営業成績の芳しくない営業マンは、こんなに一生懸命やっているのにどうして目標が達成されないのだろうと悩むのは、誰がどのような状況にあるときに、自社の商品がどのように役立つのか、そして、どのように満足するのかというサクセスストーリーを組み立てたシナリオがないためなのである。
 もちろん初期の段階では、想定される顧客自体が明確に問題や課題を認識していない場合もある。そうした状況にあると思われる顧客層に向かって、仮説を投げかけるのが情報発信に他ならない。この仮説が正しければ相手のガードはかなり下がり、価格や支払方法など更なる情報を求めるという行動に変化していく。