引き継ぎ案件の磨き上げ

 前任者から得意先を引き継ぐ場合は、前任者の成果をそのまま引き継ぐので、得意先との付き合い方も前任者のスタイルを踏襲するのが安全であると思いがちである。現在の取引状況が良好である場合は一理ある考え方であるが、前任者の成果を自分の尺度ではかり直す姿勢がなければ、成り行きに任せることになり得意先の新たな課題が見えてこない。
 前任者の偏見をそのまま引き継ぐことになれば、個客シェアもなんら変わりない固定的な関係を維持するだけの営業になってしまうとしたら、それは営業ではなく御用聞きに近いスタイルであり、顧客からの信頼感を勝ち取ることなど出来なくなる。前任者から引き継いだ得意先といえども、自分の目で検証してみなければならない。
 引継ぎ案件とは、現在進行中の案件ということであるから、必ずしも得意先として安定している案件とは限らない。なかには、前任者が果敢にアタックしたにも関わらず、遂に成約まで辿り着くことが出来なかったものも含まれているはずである。こうした案件に対しては前任者がどのようなスタイルでアタックしたかは重要な手がかりとなる。
 企業の現場ではよく起こり得ることであるが、業績の思わしくない営業マンは、自分の担当しているエリア内の市場性を指摘して、営業努力では解決できないと主張する。しかし、担当者を変えるとたちまち業績が好転する。こうした現象が生じた背後には、営業マンの能力よりも固定観念が災いしていることが多々ある。
 このように先入観や固定観念から抜け出せないことはあるが、この対極にあるのが優柔不断である。人間はえてして結果論のみで評価されることが多いし、それが当然だと思わなければ成り立たない社会でもあるが、大事なことは先入観を捨てる勇気をもつことである。営業マンの仕事は自分の存在感を売ることが基本だからである。
 塩漬けになっている引継ぎ案件の中から、お宝を探し出す営業マンの特徴は、前任者の説明を鵜呑みにせず、自分の目で確かめるという行動をとっている。顧客の需要は大きいはずなのに何故自社のシェアが低いのか、その原因を追究するためにどれだけ積極的にアタックするかによって道が開ける可能性は確実に高まる。